Research Abstract |
パターン形成の数理モデルとして重要な役割を果たす反応拡散系は,拡散誘導不安定化のアイディアに基づくものが多い.今年度は,拡散誘導不安定化が起こる条件や得られる空間パターンの性質について,いくつかの反応拡散系を比較することで体系的に理解することに取り組んだ.このように,様々な反応拡散系の基本的構造を比較することで,新たなモデルの提唱や,多くの分野で見られる化学物質の反応によって生じる現象の仕組みの理解につながると期待している. 今年度は特に,肺癌発現の数理モデルについて,解の挙動,空間パターンの存在と安定性の解明に取り組んだ.扱う方程式系は,三つの未知関数から成る反応拡散系で,空間は有界領域上で考える.一つの方程式のみが拡散項を含む偏微分方程式で,残りの二つは拡散項を含まない常微分方程式の形をしている特徴を持つ.この系については,空間上の離散的な点にピークを持つような空間パターンの存在が数値実験により知られている.本研究では,この反応拡散系から得られるすべての非定数定常解の存在を明らかにした.実際,非定数定常解はすべて,単調増加(減少)な解を折り返して得られるような解であることを示した.ピークの数は,拡散係数の大きさに依存する.さらに,その空間パターンは常に不安定であることを証明した.この結果,数値実験で得られるパターンは滑らかな解のクラスには属するものではなく,より弱いクラスでの解析が必要であることが分かった.本研究では,すべての方程式が拡散項を含む場合に使われる半群理論などのうち適用できないものもあり,新たな解析手法の構築の第一歩にもなった.本研究の解析手法が適用できる方程式系の特徴を整理し,拡散誘導不安定化に基づくパターン形成の数理モデルの解析手法と結果について,体系的に理解するという,新たな課題を得ることができた.
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