2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20740134
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
福嶋 健二 京都大学, 基礎物理学研究所, 准教授 (60456754)
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Keywords | 量子色力学 / カイラル対称性 / カラー閉じ込め / 相転移 / バリオン密度 / クォーク物質 |
Research Abstract |
今年度は、強い相互作用するクォーク・グルーオン物質の相図に関して、従来理論研究に用いられてきたカイラル模型と、実験的に成功している熱的統計模型とを組み合わせて、カイラル模型の不十分な点を明らかにすることができた。現在、低エネルギー重イオン衝突実験によって、実験室の中で超高密度物質を人工的に作り、その性質を調べようという計画がドイツ、ロシアで進んでおり、日本の加速器でも可能性の検討が始まっている。実験側の機運の高まりに対して、理論側では、確かな理論予想を提示することができずにいるのが現状であると言わざるを得ない。これはスーパーコンピューターを用いた大型計算機シミュレーション(格子QCDシミュレーション)が、コンピューターの性能の問題ではなく、原理的な問題によって、高密度領域では破綻してしまうためである。そのため理論的不定性の大きいカイラル模型に頼らざるを得ない、という極めて不満足な状況が続いていたのだが、そのカイラル模型の不定性を、熱的統計模型によって制限できる、ということを示すことができた。また同時に、熱的統計模型の熱的自由度(エントロピー密度)と比較することによって、カイラル模型は特に高密度側にいくと、物理的自由度を正しく勘定していないことが明白となった。この問題点に対する有効的な解決策として、非閉じ込め転移をコントロールしているポリアコフループ変数への依存性を仮定導入したが、その深い意味づけは、まだ完全には理解されていない。今後は汎関数繰り込み群法を用いるなどして、より基礎理論からの裏づけが必要となることだろう。逆にいえば、今年度の成果は、このような将来の基礎研究に対して、現象論的にどのような帰結になるべきか、という方向性を与えたとも言えるだろう。
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Research Products
(15 results)