2009 Fiscal Year Annual Research Report
遷移金属酸化物における電子及びフォノン励起による光相制御
Project/Area Number |
20740172
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
田久保 直子 The Institute of Physical and Chemical Research, 加藤分子物性研究室, 基礎科学特別研究員 (60447315)
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Keywords | 光誘起相転移 / 強相関電子系 / 絶縁体-金属転移 |
Research Abstract |
本研究では、多様な物性を示す強相関電子系を対象とし、光誘起相転移現象を用いた光による物性制御とそのメカニズムの解明を目的とした。 本年度は、強相関電子系BEDT-TTF塩の電荷秩序状態に着目し、光励起による電荷秩序の融解という観点から光誘起相転移の研究を行った。具体的には、α-(BEDT-TTF_2I_3、(BEDT-TTF)_3(ClO_4)_2、(BEDT-TTF)_5Te_2I_6、θ-(BEDT-TTF)_2RbZn(CNS)_4(fast cooling)の電荷秩序状態において、光誘起絶縁体-金属転移を観測した。各物質において、低温の電荷秩序状態(4K)において電場下でパルスレーザーを照射したところ、2つの成分を持つ巨大異常光電流が観測された。第1成分は、5ns以下で数桁の伝導度の増加を伴うものである。また、遅れて立ち上がる第2成分は、ある程度以上の測定電場を印加している限りは光照射後も永続的に保たれるという特徴を持つ。さらに、波長依存性や温度依存性などから、光誘起絶縁体-金属転移のメカニズムの考察を行った。 なお、(BEDT-TTF)_3(ClO_4)_2と(BEDT-TTF)_5Te_2I_6においては、本研究で初めて光誘起相転移が確認された。また、θ-(BEDT-TTF)_2RbZn(CNS)_4においては、冷却速度の違いによる異なる電荷秩序状態のもとで光照射実験を行い、電子格子相互作用と光誘起相転移の関係を見出した。 さらに、本研究では、バルク試料に加えて薄膜試料でも実験を行った。BEDT-TTF塩の薄膜化試料での光照射実験は本研究が初めての報告である。薄膜固有の性質を活かし、ゲート電圧下での光照射実験や、基板の違いによる考察を行った。 本研究の結果は、電荷秩序状態における光誘起相転移の発現メカニズムを確立する指針となる。また、高速で巨大な応答を示すため、光スイッチなど応用への展開も期待される。特に、薄膜化試料は応用上大変有用であり、本研究は応用においても大変意義がある。
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