Research Abstract |
ガラスは有限温度での液体の過冷却によって生成する。物質の状態が冷却とともに粘りが増し,ついにはある温度で固化する。このような現象はガラス転移と呼ばれており,未だ物性物理学の未解決問題の一つとして認識されている。本研究課題では,ガラス転移について知見を得るために,ガラス中に多量に含まれているナノスケールの空隙(ナノ空孔)に着目した。昨年度は,ナノ空孔評価に関する実験環境整備のため,陽電子を用いたナノ空孔計測システム,および時分割熱膨張計測システムの立ち上げを行った。今年度は,現実的なガラス材料である石英ガラス材料と高分子材料を調査した。具体的には以下を推進した。 I. 陽電子を用いたナノ空孔評価 陽電子を用いた計測システムを用いて,ガラス材料中のナノ空孔評価を行った。陽電子寿命計測システムを用いて電子密度を精密計測し,種々のガラス材料と高分子材料についてサブナノからナノメートルレベルの空孔サイズ分布を得ることができた。さらに,陽電子寿命-運動量相関計測(AMOC)システムにより抽出されたo-Ps運動量分布を解析し,ナノ空孔近傍を元素分析することに成功した。 II. 時分割熱膨張計測による調査 本研究では,室温からガラス転移温度近傍に昇温速度20℃/分以上で急速昇温させ,その温度を長時間保持することを試みた。その間,時間に対する長さ変化を測定することになるが,微弱な温度変化など多くの要因によるドリフトの影響が問題になる。新たに開発したシステムを用いて,高分子材料の一つであるポリカーボネイト,固体酸化物,鉄鋼材料について,数週間にわたって安定なデータを取得することに成功した。
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