Research Abstract |
低次元量子スピン系の物質では,最近,スピンが大きな熱を運ぶことが分かってきており,絶縁性の高熱伝導材料への応用が期待されている.しかし,スピンによる熱伝導機構は,完全には解明されていない.本研究は,このスピンによる熱輸送現象を熱伝導測定以外の方法で観測し,スピンによる熱伝導機構解明への知見を得ることを目的としている.昨年度,英国にある理研RALにおいて,2本足梯子格子系Ca_5La_9Cu_<24>O_<41>を用いて,試料に温度勾配を付けてミュオンスピン緩和法の観測を行ったが,スピンによる熱輸送現象の証拠を観測することは出来なかった.この結果から,出来るだけ平均自由行程を伸ばした弾道的に熱を伝える1次元量子スピン系の物質で実験を行うべきであると考え,本年度は,Sr_2V_3O_9やSrCuO_2におけるスピンによる熱伝導の研究を行った. Sr_2V_30_9の大型単結晶試料を作成し,熱伝導測定した結果,30K付近にスピンによる熱伝導の寄与が存在することがわかった.そして,平均自由行程の大きさを見積もると約3000Aになることがわかった.一方,SrCuO_2において,高原料純度による単結晶育成や育成後の酸素アニールを施すことによって,平均自由行程を今までの報告の10倍程度である30000Aまで伸ばすことに成功した.この大きさは,世界一の大きさである.ミュオンスピン緩和法によってスピンによる熱輸送現象を観測するためには,まだ,不十分な大きさである.しかし,今までスピンによる平均自由行程の上限は3000A程度であると言われており,本研究はその壁を越えることに成功した.そのため,スピンによる熱伝導を用いた絶縁性の高熱伝導材料開発の指針を示した結果である.
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