2008 Fiscal Year Annual Research Report
過冷却液体におけるストークス-アインシュタイン則の破れの理論的研究
Project/Area Number |
20740245
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
鄭 誠虎 Institute for Molecular Science, 理論・計算分子科学研究領域, 助教 (40390645)
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Keywords | 過冷却液体 / ガラス転移 / 動的不均一性 |
Research Abstract |
本年度においては、交付申請書に記載した計画通りの研究を行い、(i)単純液体系(レナード・ジョーンズ系)に拡張されたモード結合理論を適用し、理論がストークス-アインシュタイン則の破れを記述できること、(ii)その破れの度合いが実験や計算機シミュレーションの結果と同程度であること、を示し、さらに(iii)ストークス-アインシュタイン則の破れと動的不均一性の関連を調べる研究を行った。これらの結果についてはPhysical Review E誌において発表した。(i)と(ii)の結果は、私が構築した拡張モード結合理論が、ストークス-アインシュタイン則の破れの起源を論じる際に有効な微視的理論であることを示している。また、(iii)の研究を通じて、従来の解釈(分子が動きやすい場所と動きにくい場所が存在するような不均一な状態においては、動きやすい場所で移動距離を大きく稼ぐことができるために空間が均一である場合に比べて拡散係数が大きくなり、また、粘性率は応力を負担する動き難い場所の影響をより強く受けるので空間が均一である場合に比べて大きくなると考えられ、これが原因でストークスーアインシュタイン則が破綻すると考えられてきた)は不適当であり、実際は、拡散定数が動的相関長(粒子のダイナミクス相関が見られる長さのスケール)より長いスケールのダイナミクスを反映しているのに対し、粘性率がそれより短いスケールのダイナミクスを反映していることに起因することを明らかにした。 また、同様の解析を過冷却状態における2原子分子液体の計算機シミュレーション結果に適用することにより、回転拡散においても同様な解釈が成立することを示した。この結果についてはPhysical Review Letter誌において発表した。このシミュレーション結果は、今後理論を分子系にも適用できるように拡張する際に参考となる結果である。
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