Research Abstract |
近年の新しい化学反応理論の発展により, 系の持つエネルギーが遷移状態のそれよりかなり高く, 複数のチャンネルで反応が進行する高エネルギー・多チャンネル化学反応では, 従来の遷移状態理論では記述不可能な現象が理論的に予測されている. 本研究では, 孤立気相中に生成した分子クラスターの精密な分光データを取得することによって, 新しい化学反応理論を厳密に検証し得る信頼性の高い実験データの取得を目指して研究を行った. 高エネルギー・多チャンネル反応を調査するためには, 孤立気相中において複数の構造異性体が安定に存在する系を見出す必要がある. 本研究では, インドール, 及び7-アザインドールの溶媒和クラスターの赤外分光を行い, これらのクラスターにおいて複数の構造異性体が存在することを明らかにした. また, クラスターを高振動エネルギー状態に励起するためには, クラスターの電子基底状態における振動構造を明らかにする必要があるが, インドール, 及び7-アザインドールの溶媒和クラスターに対して, 誘導放出分光を行い, これらのクラスターの振動構造を明らかにした. クラスターの各構造異性体がもつ全振動モードを実験的に全て明らかにすることは極めて困難である. しかしながら, 全振動モードのデータは, クラスターの有する振動余剰エネルギーと温度を結びつける上で重要である. そこで, 本研究では, 高精度量子化学計算を行い, 各構造異性体の全振動モードを計算し, それをもとに, 熱力学関係式を用いて, 実験で生成したホットなクラスターの温度を見積もることに成功した.
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