Research Abstract |
ドラッグデリバリーシステム(DDS)に応用が期待される材料として各種無機ナノ粒子が注目されている,本研究課題で取上げた層状複水酸化物(LDH)は,新規な機能性材料への発展が期待される無機ナノ粒子の一つである.LDHは陰イオン交換能を持つことから,様々なインターカレーション反応を用いた有機/無機ナノ複合体の基盤材料として利用されている.とくに,抗ガン剤や鎮痛剤,抗生剤など,LDH層間への薬物の取り込みならびにLDHからの薬物の放出挙動に関する研究が活発に行われている.しかし,薬物/LDH複合体の細胞毒性ならびに細胞内への薬物の輸送効率の向上や細胞選択性に関する研究はほとんど行われていない.本年度は,昨年度合成した抗ガン剤5-fluorouracil (5-FU)/LDHに各種生体分子を修飾した生体分子/5-FU/LDHの合成ならびにその細胞毒性について検討し,LDHによる細胞への抗ガン剤の輸送効率の向上および細胞選択性について検討した. 5-FU/LDHの修飾には生体親和性の高い,コラーゲンペプチド(Cp),コール酸(Chol)およびポリエチレングリコール(Peg)を用いた,XRD,FT-IR,TG-DTA,組成分析などの結果から,一部5-FUの放出は認められたが,生体分子/5-FU/LDHの合成に成功した.細胞毒性試験の結果,Chol/5-FU/LDHはL929細胞に対し高い細胞毒性を示し,Cholによる膜透過性の影響と考えられたが,HeLa細胞に対する細胞毒性は低いことがわかった.また,Peg/5-FU/LDHは細胞の種類に関係なく修飾前に比べ細胞毒性が向上し,5-FUの輸送効率が約2倍に改善された.SEM写真から,LDHの凝集はPeg修飾により抑制され,LDHの分散性の向上にともない細胞表面へのLDHの吸着量が増加するため,輸送効率が改善すると考えられた.とくに,ガン細胞であるHeLa細胞に対する細胞毒性は他の5-FU/LDHに比べ高く,Peg修飾より5-FU/LDHの細胞膜の透過性や吸着性が改善できることが示唆された. 以上の結果から,生体分子/抗ガン剤/LDHは少ない薬物の量で効果的に作用するドラッグキャリアとして利用でき,今後DDSへの展開も期待できる.
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