Research Abstract |
昨年度までに,ポリスチレンおよびポリ-2-メトキシエチルアクリレート膜中の一次水和水の相転移挙動を評価し,一般的解釈である「一次水和水=不凍水」は,必ずしも正しくなく,不凍水のみ存在すると考えられてきた含水領域においても,ポリスチレンにおいては,凝縮/凍結/蒸着,および昇華/融解/気化の,ポリ-2-メトキシエチルアクリレートにおいては,蒸着様,昇華様の相転移を起こすことを明らかにした.本年度に実施した研究では,昨年度見出された固体高分子中の水の凝縮,蒸着,昇華,気化の4つの相転移は,広く水構造の解析に用いられている熱量測定では,検出不可能であることを明らかにした.具体的には,ポリ-n-ブチルアクリレート中の一次水和水の相転移挙動を分光学的に解析したところ,ポリスチレンと同様に,一次水和水の凝縮/凍結/蒸着および昇華/融解/気化が確認されたが,熱量測定においては,凝縮,蒸着,あるいは昇華,気化を明確に示すシグナルを得ることができなかった.この結果の差異は,それぞれの測定手法の水に対する感度の違いではなく,検出対象が異なる,という原理的な問題であることが判明した.熱量測定は,系の熱流束をともなう転移(変化)を検出するが,固体高分子中の一次水和水の凝縮,蒸着,あるいは昇華,気化は,それぞれの転移と同時に,高分子マトリックスからの脱着あるいはマトリックス中への収着を伴い,その脱/収着熱が,水の相転移熱と逆符号でほぼ等しく,互いの熱流束が打ち消され,熱量測定では検出できないと考えると,上記の結果を説明できる.これらの知見は,これまでに多くなされてきた熱量分析に基づく水一高分子系の水構造の解析結果,解釈に再考を求める.
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