Research Abstract |
本研究の目的は,流体現象に伴って発生するせん断力の影響による細胞膜の機能変化を,分子レベルの構造変化とそれに基づく物性値の変化という観点から明らかにすることである.この研究においては,複雑系である細胞膜をその構成部分に分けた分子モデルを構築し,その膜の分子モデルに対して様々な状況でのせん断力を働かせるコードを開発することが特色となっている.この目的のために,本年度は,研究初年度に開発した細胞膜を構成部分に分けた分子モデルに対して,昨年度開発したせん断力に伴う膜面積変化を与えるコードを適用して得られた結果の詳細な解析と,せん断力が作用する環境下において細胞膜に水分子が輸送されることによる膜の孔構造の形成に関して詳細な解析を行った.DPPC単一脂質膜によって表現された最も単純な細胞膜分子モデルに対して,膜の疎水部分に水分子を挿入し,その後の膜構造の変化を調べたところ,初期に挿入する水分子の数に依存して,膜に孔構造が自発的に発生することがわかり,これは,波動に基づく細胞膜の透過性変化の分子的機構の一つとなることが予測できた.この結果は,2010年,Physical Review Letter誌に掲載された.次に,初年度に開発した細胞膜分子モデルの中で,POPC単一脂質膜,POPC/コレステロール混合脂質膜に対して,昨年度開発したLees-Edwards法,および衝撃波力積モデルを用いて細胞膜の分子モデルに対してせん断力を与え,細胞膜の構造変化を調べた.この研究により,コレステロールの含有により膜に垂直な方向の構造変化が抑制される一方で,せん断力によるPOPC分子の傾きは逆に促進されることがわかった.この結果は,日本機械学会平成22年度年次大会において発表した.
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