Research Abstract |
単一の燃料液滴が高温空気に曝されて燃焼を開始する過程について,昨年度は正デカン/エタノール混合燃料を用い大気圧下で実験を行った.また,高圧容器を製作し,正デカン純成分燃料を用いて高圧下での実験を開始した.今年度は同混合燃料を用い高圧下で同実験を行い,圧力,空気温度,燃料組成を広く変じ,蒸発速度,熱発生履歴,火炎径が収集され,複雑な噴霧燃焼の素過程としての系統的なデータベースを作成することに成功した.空気温度800K程度まで実験を行ったところ,大気圧下では燃料は完全燃焼せずに部分的な酸化で留まる(すなわち,冷炎のみが発生)が,高圧下では燃焼開始後まずは第一段階の酸化(冷炎の発生)を経て完全燃焼(熱炎の発生)した.燃料組成を変じたところ,エタノール成分の増加とともに冷炎の点火遅れは長くなった,これは,エタノール成分が冷炎を発生しない特性に由来すると思われる.一方,冷炎が発生してから熱炎が発生するまでの時間(第二誘導期間)については,燃料組成への依存性は大きくなかった.また,窒素雰囲気中での蒸発実験を行い,昨年度開発された液相の熱・物質輸送を考慮する数値計算モデルと比較し,内部沸騰特性によい一致がみられた.また,数値計算で単分散噴霧を模擬したところ,液滴の数密度が冷炎の点火遅れと第二誘導期間に逆の影響を与えることが判明した.二液滴を用いた実験でも同様の傾向が確認され,単一液滴と液滴群の自発点火挙動の違いが示された.なお,冷炎の点火遅れは液滴の加熱期間を含むため,液滴径への依存度が大きいが,第二誘導期間のそれは小さい.燃焼器の設計,もしくは燃焼器に合わせた燃料設計において,点火遅れは重要な指標であるが,粗大液滴を用いた本実験の知見を微小液滴によって構成される実用噴霧に適用する際には,数値計算を利用してスケールを適宜調整することになる.
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