Research Abstract |
多関節系の慣性運動をリーマン距離の観点から力学的・数学的に特徴づけ, それに基づいた, 生体運動の解析手法, 多関節ロボットの運動制御法を示すことを, 本研究の目的としている. 本年度は, リーマン距離による多関節運動の解釈, 生体運動における慣性誘発効果の度合いを測る「慣性運動メジャー」の提案を行った. 回転関節により結合される剛体リンク系のとり得る姿勢全体の集合は, 微分可能多様体とみなせる. この多様体に, 多関節系の慣性行列からなるリーマン計量を定義すると, その多様体はリーマン多様体となる. このリーマン多様体で適当に選んだ2点(各点は多関節系の各姿勢に対応する)において, 2点間をリーマン距離で結ぶ測地線は, 力学的には,多関節系が2姿勢間を慣性誘発力(慣性力, 遠心力, コリオリカ)のみの作用によって動くときの運動に対応することを明らかにした. 平面4自由度剛体リンクアームの場合, リンクに枝分かれのある場合(人間の全身モデル)について運動のシミュレーションを行い, それらが力学的に自然で滑らかな運動であることを確認した. さらに,多関節系のある部分が環境と接しながら運動する場合, すなわち, ホロノミック拘束のある場合でも, 拘束条件を満足する姿勢の部分集合を考えれば, その集合がリーマン部分多様体となり, 拘束のない場合と同様に扱えることを示した. また, これらのリーマン距離の力学的性質に基づき, 人間の運動中の慣性誘発運動の度合いを測る慣性運動メジャーを提案し, その効果をコンピュータ上で作り出した力学的に理想的な運動に適用することで確認した. 慣性運動メジャーは, 人間が慣性をどのように扱っているか, 運動中のどの区間で慣性を利用しているかを定量的に示し得る. 現在, 実際のリーチングデータにこのメジャーを適用し, 運動解析を行っている. その他, 慣性誘発効果を巧みに利用する, 多関節ロボットの運動計画の可能性を示唆した.
|