Research Abstract |
本研究は,材料の電子物性を超えた発光現象の根本的な制御が期待される光ナノ構造を,電子デバイスに最も広く用いられている半導体材料であるが,間接遷移型ゆえ,発光割合が極めて小さいという問題点があるシリコンへ導入した場合の発光状態を観察し,理論と比較していくことで,光ナノ構造がシリコンからの発光に与える効果を明らかにしていくことを目的としている.本年度は昨年度までに見いだされた光ナノ構造フォトニック結晶のシリコンの発光に対する効果を一層有効に活かすべく,発光過程に競合する非発光過程の低減のための表面処理技術の検討を進めた.具体的には,高圧水蒸気アニール法という,MPaの高い水蒸気圧力下でシリコンを加熱処理する方法を用いた.この方法では,260℃の比較的低い温度でシリコン表面に良質の酸化膜を形成することが可能であり,フォトニック結晶のような多くの表面をもつ微小構造に有効であると期待した.実験の結果,圧力が1.3MPaのとき,表面粗さが発生せず,処理が可能であった.一方,3.9MPaでは約4nmの粗さが発生し,プロセス圧力が重要であることを見いだした.シリコンフォトニック結晶へ高圧水蒸気アニール法を適用したところ,発光強度が約6倍増大した.様々な格子定数をもつフォトニック結晶に対して,時間分解フォトルミネッセンス測定によるキャリアダイナミクスの評価から,表面パッシベーションが有効に働き,表面再結合速度が約0.4倍に低減したためである,ということが確認できた.以上により,高圧水蒸気アニール法がシリコン光ナノ構造の発光高効率化に有効であると結論づけることができた.
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