Research Abstract |
本研究では,構造振動の詳細な計測を可能とする,多数の無線センサによる社会基盤構造物の多点同期振動計測システムを開発する事を目的とした.本システムは膨大な社会基盤構造物の振動状態の詳細な把握を可能とし,構造現有性能,安全性評価を大きく向上させるものである.具体的には,(1)実構造物の振動計測のための通信性能と(2)微小振動計測性能の実現を行った. (1)無線センサノードの通信半径が非常に小さいこと,および,利用している無線センサノードが国内の技適(技術基準適合証明)を取得しておらず国内での通信実験ができなかったことから,当初は長距離通信が可能な通信ボードを新たに開発する計画でいた.ところが通信実験および調査を進める中で,アンテナの性能及び設置位置の調整により通信距離を長くできることがわかったため,国内の技適取得とマルチホップ通信アルゴリズム開発により,実構造物の振動計測のための通信性能を実現することとした. マルチホップ通信では一般にホップ数やセンサノード数の増加とともに通信速度が低下するが,迅速な構造性能評価を行うためには多量の振動計測データを効率良く収集することが欠かせない.既往の研究では一橋梁の振動計測データの収集に12時間を要した例も報告されている.そこで,効率的なマルチホップデータ収集を主な研究要素とした.既往の研究を調査し,マルチホップ通信に伴なう通信速度低下の原因を調べ,この問題を解決する方法として,複数無線チャンネルの効率的な割り当てと近隣センサノードの同時通信を提案した.本手法を無線センサノードに実装し,実橋梁でその性能を調べたところ,既往の方法と比べて10倍以上の通信速度を有していることが確認できた. (2)市販の無線センサノードは,必ずしも社会基盤構造物の振動計測を主な用途として設計されているわけではなく,付属のセンサーボードによって交通振動や常時微動などを計測できるとは限らない.市販無線センサーボードの解像度を調査したところそのすべてで,解像度が粗いことが判明した.そこで,橋梁の交通振動や有感地震動が計測可能な分解能の実現を目指した.研究代表者が,留学中から共同研究を進めていた米国イリノイ大学アーバナシャンペーン校土木環境工学科のスペンサー教授と共同で3軸加速度センサーボードに必要な諸条件をまとめ,イリノイ大学側が中心となりセンサーボードを製作した.このセンサーボード計50個を利用し,計測性能を確かめるため複数の実橋梁で振動計測を行ったところ,交通振動から橋梁の鉛直,橋軸直角方向の振動モードを同定することに成功した.
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