Research Abstract |
昨年度の研究成果では,カップスタック型CNT(CSCNT)を混練した炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の層間破壊じん性に向上が見られなかった.その原因として,CSCNTの樹脂中への分散が不十分であることが考えられ,実際に顕微鏡による観察では,樹脂中で直径数十マイクロメートルのCSCNTの凝集体が確認された.そこで,本年度は塗料や炭素粉末の分散に用いられる市販の分散剤を用いて,分散剤の種類と量,超音波の照射時間を変えながら,光学顕微鏡でCNTの分散状態を観察し,分散条件を検討した.その結果,樹脂中の凝集体は細分化され,その直径はサブマイクロメートルとなった. 次に,構造体へのCNT分散を想定し,層間破壊じん性に加えて振動減衰特性への影響を評価した.動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて,周波数およびひずみ,温度依存性を評価した.試験モードは,デュアルカンチレバーおよび3点曲げを用いた.はじめにCSCNTを分散した樹脂,次にガラス繊維強化プラスチック(GFRP)にCSCNTを分散したものについて評価した.その結果,アスペクト比(AR)が10のCSCNTを5wt%分散させた樹脂において振動減衰特性の向上が確認された.またひずみ依存性については,CNT濃度が高い場合に影響が大きく,ひずみ量の増加に伴い振動減衰特性は向上した.樹脂の温度依存性については,CNT分散によってより低い温度で,弾性率の低下が生じた.これは,分散の際に用いた薬品の影響であると考えられる.GFRPでは,CNT分散により振動減衰特性の向上が示された.ただし,CNT分散による粘度上昇に伴い,繊維含有体積率(Vf)が低下した.そのため,Vfの影響が除外できず,振動減衰特性に関するCNT分散の影響を明確に評価することができなかった.
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