2009 Fiscal Year Annual Research Report
コンプトン散乱による溶融シリコンの電子運動量密度分布の決定-共有結合性の検証-
Project/Area Number |
20760504
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Research Institution | Japan Aerospace Exploration Agency |
Principal Investigator |
岡田 純平 Japan Aerospace Exploration Agency, 宇宙科学研究本部, 助教 (90373282)
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Keywords | シリコン / 電子構造 / コンプトン散乱測定 / 静電浮遊法 |
Research Abstract |
シリコンは融解すると金属になる。このとき電気伝導度は何桁も増大し、およそ1.4×10^4Ω^<-1>cm^<-1>まで上昇する。この値は、アルミニウムなどの自由電子近似が成り立つ通常の溶融金属のものとほとんど変わらない。さらに、溶融シリコンの光電子分光スペクトルは、4個の価電子すべてが自由電子的であるとして説明できるとされている。このように、共有結合をもち典型的な半導体である結晶シリコンは、融解すると一転して単純な金属になると長い間考えられてきた。しかし、液体シリコンの原子構造は通常の液体金属と大きく異なる。液体金属の原子構造は、通常、配位数が約11と密な構造を持つが、液体シリコンの配位数は5.5~6と通常の液体金属の半分に過ぎず、むしろ、この値は固体シリコンの値に近い。しかし、自由電子的な電子物性と共有結合的な原子構造がどのようなメカニズムによって共存するのか実験的に解明されていなかった。 本研究課題では、シリコンの電子構造を調べるために、静電浮遊法を用いて安定に浮遊溶融させた液体シリコンについて、SPring-8の硬X線を用い、X線コンプトン散乱測定とX線ラマン散乱測定を行った。X線コンプトン散乱測定から、液体シリコンの電子運動量密度分布は自由電子的な分布を示す放物線状とは全く異なり、固体シリコンと非常に良く似ていることが判明した。これは、価電子の大半が固体と同様の共有結合的な状態にあることを示す。一方、X線ラマン散乱測定により、フェルミ準位近傍の非占有状態密度の変化を調べたところ、固体シリコンのフェルミ準位付近のギャップの消滅を直接反映するラマンスペクトルの明瞭な変化を観測することができた。液体シリコンの価電子の大部分は固体と同様の共有結合的な状態にあるが、フェルミ準位近傍の価電子は、振る舞いを大きく変化させ、液体シリコンの金属化に寄与していると考えられる。
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