2010 Fiscal Year Annual Research Report
陽電子マイクロビームを用いた応力腐食割れの超微視的解析
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20760598
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
前川 雅樹 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 先端基礎研究センター, 研究員 (10354945)
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Keywords | 陽電子マイクロビーム / 陽電子消滅法 / 空孔型欠陥 / 応力腐食割れ / ステンレス鋼 / 亀裂進展 / 耐食性 / 熱鋭敏化 |
Research Abstract |
原子力材料分野では、ステンレス鋼の応力腐食割れ(SCC)に関する研究が精力的に行われており、近年は特に亀裂最先端部における劣化解析が注目されている。これまで我々は陽電子マイクロビームを用い、SCC亀裂の先端部付近に単空孔程度の大きさの空孔型欠陥が存在することを明らかにしてきた。さらに、材料の耐食性(熱鋭敏化度)低下により亀裂進展が促進された試料ほど空孔の分布は明瞭であるなど、亀裂の進展への空孔型欠陥の関与は重要であると思われる。しかし亀裂進展に追従して空孔の関与を調べるためには、亀裂発生後の試料を破壊的に整形して断面観察をする従来の観察法では限界がある。そこで、応力印加下に試料を固定し、腐食を進展させながら断続的に亀裂進展の様子を観察できる測定法を開発した。薄膜ステンレス試料に引っ張り応力を印加し、塩化マグネシウム沸騰水腐食環境下でSCCを誘発させ、発生した亀裂先端付近の領域に対し陽電子マイクロビームを適用し、ドップラー幅広がり測定から空孔分布観察を行い、亀裂進展に伴う空孔型欠陥の発生状況を調べた。その結果、SCCにより導入された亀裂の周囲において陽電子消滅Sパラメータの分布を計測したところ、亀裂の先端よりも離れた位置でSパラメータが上昇していることが見出された。これは、亀裂進展に先立ち、原子空孔様の欠陥が導入されていることを示している。運動量分布を詳細測定から、塑性変形によって導入される欠陥のものとよく一致した。さらに、第一原理計算による欠陥モデル計算結果と比較したところ、単空孔サイズの欠陥であることがわかった。これらの結果は、亀裂の発生に伴って塑性変形誘起空孔が発生し、それが粒界に沿って移動・蓄積することで亀裂先端に蓄積することで割れが進行していくという最近のSCC進展モデルを支持するものである。
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