Research Abstract |
本年度の研究成果の具体的内容は以下の4つである.(1)タイ類ゼニゴケ類について,減数分裂機構を微小管形成中心の位置,紡錘体の形態,葉緑体の数と配分様式などについて類型化し,分子系統学的解析と照合することで,ゼニゴケ類の減数分裂様式の進化について議論した.研究成果を論文として公表した.(2)ツノゴケ類としては例外的に細胞内に複数の葉緑体をもつアナナシツノゴケについて,減数分裂時の葉緑体の動態を明らかにした.一般的に,ツノゴケ類は胞子母細胞に一個の葉緑体をもち,葉緑体が4つに分裂した後,核分裂がおこるが,アナナシツノゴケでは葉緑体が8個に分裂した後,核分裂が開始している例が見られた.(3)コケ植物の中で,例外的に4本鞭毛を持つことが知られているケゼニゴケの精子の中心体や中心小体の数や挙動を明らかにした.精母細胞の間期では,γチューブリン抗体によって認識される球状のMTOCの数は,1個から4個で,まれに5個の場合があった.精母細胞中に4個以上の球状のMTOCが存在することは,精細胞に複数の中心体が配分されることを示唆する.コケ植物の鞭毛数の増加には,シダ植物や裸子植物とは異なる機構が関与していると考えられた.(4)コケ植物の苔類の中で,最も初期に分岐したと考えられているコマチゴケ目の体細胞分裂における微小管系の変遷を明らかにした.その結果,陸上植物に典型的な表層微小管系,分裂準備帯が形成されることを確認した.これは,表層微小管系や分裂準備微小管帯(PPB)がないとされる,セン類の原糸体の細胞分裂とは異なっている.セン類の糸状の原糸体で表層微小管系やPPBがみられないことは,糸状の体制は藻類に似た原始的な形質状態を示しているのではなく,派生的な形質状態と考えた.本年度の研究で,これまでほとんど情報がなかったタイ類とツノゴケ類の細胞分裂様式について,分類群間,生活環を通じた多様性があることがわかった.
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