Research Abstract |
SARSコロナウイルス(SARS-CoV)の構造蛋白質の一つであるN蛋白質は, 感染宿主細胞の細胞質中で転写されたウイルスゲノムRNAと結合し, その後に多量体化することでヌクレオキャプシドを形成すると考えられている. これまでに得られた知見により, 細胞質で形成されたヌクレオキャプシドが, N蛋白質を介して小胞体(ER)膜上に局在するSARS-CoVの構造蛋白質であるM蛋白質と結合することによりウイルス粒子の形成が進むと考えられるがその分子機構は不明である. 本研究ではN-M複合体の構造生物学的な解析を行い, この複合体を中心とした, SARS-CoVの粒子形成の仕組みを理解するために, X線結晶構造解析法により, NPとM蛋白質の複合体(N-M複合体)の立体構造を明らかにすることを目的とした. 従来, N-M複合体はHEK293細胞を用いた組換え発現系において共発現が認められていたが, 構造解析用試料として使用するためには著しく発現量が不足していた. さらにこれまでの実験から大腸菌組換え発現系を用いた場合, M蛋白質は封入体を形成し, 可溶性蛋白質として調製することは困難であったため, 本年度は, N-M複合体を巻き戻し法により調製することを試みた. N蛋白質は可溶性蛋白質として発現することから, イオン交換クロマトグラフィー, ゲル濾過クロマトグラフィーにより精製した. M蛋白質は遺伝子組換え大腸菌より封入体として調製した. これらの蛋白質を6Mグアニジン塩酸を含んだTris緩衝液(pH8.0)に溶解した後に混合した, この変性N-M混合溶液のグアニジン濃度を段階透析法により下げることで巻き戻しを行った. その結果, N蛋白質の可溶化を認めたが, M蛋白質の可溶化は認められなかった. またM蛋白質に付加したポリヒスチジンタグを用いたアフィニティクロマトグラフィーによる精製を行つたが, N-M複合体の形成もこれを認めなかった. さらに小麦胚芽無細胞発現系を用いた共発現を実施したが, これも複合体を調製するには至らなかった. 今後はHEK293細胞を用いた組換え発現系における発現効率の改善と, 大腸菌無細胞発現系を用いたN, M共発現系を構築し複合体を調製する2種類のアプローチでN-M複合体調製を実施する
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