Research Abstract |
自然環境の劣化が進む中,地球環境を考える上で,窒素過多は大変大きな問題であり,国連のミレニアム生態系アセスメントにおいても指摘されている.本研究は,この富栄養化に注目し,貧栄養湿地で自生するモウセンゴケ属植物の雑種形成による種分化と窒素環境との関係の分子生物学的な解明を目指している.研究対象とするトウカイコモウセンゴケ(Dt)はモウセンゴケ(Dr)とコモウセンゴケ(Ds)の交雑起源種で,東海丘陵要素の1つである.報告者は,Dtの自生地の水質がDrの自生地に比べて富栄養であること及びDtが両親種と比較して富栄養培地で生育可能との知見を得ており,Dtは富栄養環境に適応進化して,「富栄養耐性の超越形質を得た」と想定した.21年度は,3種を窒素源と窒素濃度の異なる培地および対照区としてKClを加えた培地での栽培を行なった.これらの結果,KNO_3 1mM以下の培地では3種とも良好に生育したが,15mMでは3種とも地上部が枯死し,5mMではDrよりDsとDtの生育が良好であった.一方,15mMKCl培地では3種とも,ほぼ同等の生育を示したので,硝酸培地での生育不良は高塩ストレスとは異なることが示された.窒素源をNH_4-Nとすると,葉の伸長は良好になったが,生存個体数については硝酸培地の場合と同様の結果であった.このことは,モウセンゴケ属植物はNO_3-NよりNH_4-Nをやや好み,富栄養下では生育が阻害されるが,3種の中ではDt,Dsが富栄養に対して許容範囲が広いことが明らかとなった.このことは,交雑起源種であるDtは,より富栄養に対して許容範囲が広いDsの形質を受け継いだことを示しており,地球環境が富栄養化している中で,より優良な形質を受け継いだものであることを示唆した.今後は,Dt,Dsの富栄養耐性およびDrの富栄養感受性機構を解明するために窒素同化関連酵素の構造や性質等を解析する.
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