2010 Fiscal Year Annual Research Report
生活環境が反映された人骨形質の時代的変遷から、日本人の形成過程を探る
Project/Area Number |
20770198
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Research Institution | St.Marianna University School of Medicine |
Principal Investigator |
澤田 純明 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 助教 (10374943)
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Keywords | 人類学 / 骨組織形態学 / 古病理学 / 日本列島の人類集団 / 古人骨 / 生活環境と健康状態 / 骨代謝 / エナメル質減形成 |
Research Abstract |
縄文時代から近代までの各時代集団について、環境に直接影響される骨代謝の解析(骨組織形態学的研究)と発育期のストレス・マーカーの出現状況の検討(エナメル質減形成の古病理学的研究)を通して、人々の健康状態や生活環境の時代的変遷を明らかにすることを試みた。 骨組織形態学的研究に関して、縄文時代、古墳時代、古代、近世、近現代の人骨計106体から、大腿骨および肋骨の緻密質を採取し、樹脂に包埋して薄切標本を作成した。現在これらの標本の骨代謝の解析を進めており、結果がまとまり次第論文等で発表する予定である。また、この研究に関連して、ヒトと動物の骨組織構造の比較解剖学的研究を実施し、肉眼では種を特定できないような微小骨片でも骨組織形態学的検討により種を同定できる可能性を示して、遺跡出土微小骨片の動物種推定を行った。これらの成果は、学術雑誌と国際シンポジウムで発表した。 エナメル質減形成の古病理学的研究に関して、縄文時代、弥生時代、中世、近世の人骨450体について、中切歯と犬歯にみられた減形成の出現状況を調査し、その時代変化を検討した。減形成の出現頻度は、採集狩猟を主要な生業とした縄文時代人および南九州島嶼域の弥生時代人において最も高く、初期農耕民である弥生時代人や中・近世の都市住民で低い傾向が認められた。これは、減形成が形成される乳幼児期の健康状態が採集狩猟社会で低く、農耕導入後の社会で高かったことを示唆している。少ない個体数を材料とした先行研究では減形成の出現頻度が縄文時代より江戸時代で高かったとされており、この現象の説明として、いわゆる"古病理学的逆説的"な解釈がなされることもあった。しかし、人骨資料を格段に増やして検討した本研究の成果は従来の解釈の見直しを迫るものであり、減形成出現頻度の高低が生活水準の差に由来するとみなしてよさそうであると考えられた。
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