2008 Fiscal Year Annual Research Report
光合成に現れるストレス後遺症とその原因を評価するゲノム生物学的手法の開発
Project/Area Number |
20780108
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
齋藤 秀之 Hokkaido University, 大学院・農学研究院, 助教 (70312395)
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Keywords | ストレス診断 / ブナ / ゲノム生態学 / 光合成 / 遺伝子発現 |
Research Abstract |
研究目的は、光合成におけるストレス後遺症を診断できる指標性遺伝子とその発現パターンを明らかにすることである。 ブナ苗木を用いて土壌水分の操作実験を行い、土壌乾燥過程およびその再灌水後の光合成機能の低下を調べ、さらに遺伝子の発現パターンとの関係を明らかにすることで、土壌乾燥がブナの光合成に与える影響を指標する遺伝子発現パターンを調べた。 光飽和光合成速度(A_<sat>)は弱乾燥区(pF=2.6, 葉の水ポテンシャル(ψ_L)=-2.0MPa)で対照区の71%に、葉が萎れる直前の強乾燥区(pF=2.9, ψ_L=-2.1MPa)で14%に低下した。弱乾燥では気孔コンダクタンス(g_s)が47%に低下し、RuBiscoの炭酸同化速度(V_<cmax>)の低下はわずかで、光化学系IIの量子収率(F_v'/F_m')には変化がなかった。強乾燥では、g_sが12%に、V_<cmax>が41%に低下し、F_v'/F_m'には変化がなかった。よって、土壌乾燥による光飽和光合成速度の低下は、弱乾燥では主に気孔閉鎖により、強乾燥では気孔閉鎖に加えてRuBisCOの機能低下によることがわかった。土壌を適潤に戻した後、各乾燥区の光合成機能は対照区と同程度まで回復し、今回処置した土壌乾燥はブナの光合成機能に不可逆的な障害が生じさせなかった。CYP707A(アブシジン酸の分解)の発現量は乾燥にともない増加した。ACS(エチレンの合成)の発現量は乾燥の強度に関わらず同程度の増加を示した。rbcS(RuBisCOの合成)とcab(光化学系IIの集光アンテナタンパク質の合成)の発現量は土壌乾燥の影響を受けず、土壌乾燥によるV_<cmax>の低下とrbcSの発現量には関連がみられなかった。したがって、RuBisCOの機能低下をrbcSで指標することはできなかったが、土壌乾燥によるブナの光合成低下はACSの発現増で、さらに光合成低下の大きさをCYP707Aの発現量で指標できる可能性を示した。以上より、土壌乾燥によるブナの光合成低下を診断するゲノム生物学的手法として、CYP707AとACSの発現パターンを用いた評価モデルを提案できると考えられた。
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Research Products
(5 results)