Research Abstract |
近年資源量減少が懸念されているヤツメウナギ類の保護を行うために, 性成熟機構の解明を目的とした分子遺伝学的研究を行った. 河川において, カワヤツメの回遊型と河川型個体, およびスナヤツメ北方種の河川型個体について, 幼生, 変態, そして成熟の各成長段階における個体を採集し, 現地で脳を摘出・固定した. そして実験室においてtotal RNAを抽出し, mRNAを鋳型とした1本鎖cDNAを合成した. ここからランダムプライマーを用いて2本鎖cDNAを合成を行い, 増幅産物に蛍光標識を施した上でDifferential Displayを行った. その結果, 成長段階, 特に変態と成熟の段階において特異的に発現している遺伝子が検出された. また, 同じカワヤツメでも生活史の異なる個体間では変態時期における遺伝子発現パタンに差異が認められた. これと同時にヤツメウナギ類の既知領域の遺伝子解析を行い, 集団構造の一部を解明した. 一方, ヤツメウナギ類の変態や性成熟決定に影響を与える生態的要因および環境要因を明らかにするために, 環境要因の異なるスナヤツメ北方種の生息水域において, 定期的な生態調査を実施した. この際, エレクトロフィッシャーを用いて効果的に採集を行うと同時に, 採集個体については, 計測後に個体標識を付けて現地に放流した. その結果, 生息地の水温が幼生個体の成長に影響を与えていることが明らかになった. このうち成長が悪い水域の個体は, 成熟時の体サイズが小さく, 成熟までに要する年数も多いことが示唆された. このためヤツメウナギ類の性成熟の決定には, 幼生期の成長パタンやそれに影響を与える水温が関与していることが推察された. これらの成果は, ヤツメウナギ類の保護や種分化の解明に資するにとどまらず, 脊椎動物における性成熟機構の進化の解明にも重要な示唆を与えるものと期待される.
|