Research Abstract |
本研究は, 地球温暖化による気候システムの急激な変化が流域圏に及ぼす影響を予測し, 汽水域の生物多様性や生態系サービスに及ぼす影響を評価することを目的に研究を進めている. 平成20年度はSoil and Water Assessment Tool(SWAT)モデルを斐伊川流域圏および網走川流域圏へ適応した. 斐伊川流域圏については, 1985年〜2007年までの23年間をモデル化対象期間とし河川流況の再現を行った. さらに, 栄養塩のキャリアと考えられる浮遊物質量(SS)に着目し, その挙動を1988年〜2007年までの20年間再現した. 網走川流域圏に関しては, SWATモデルを適用するためのデータ整備を最初に行う必要があったので, GISデータ(土地利用, 土壌, 標高), 気象データ(降水量, 気温, 風速, 湿度, 日射量)および現地データ(営農活動情報 : 栽培作物・栽培期間・施肥量・施肥時期・灌漑に関する情報, 水量・水質)を聞き取り調査等から入手しモデルに入力した. そして斐伊川流域圏と同様に, 河川流況およびSS負荷量の挙動を2001年〜2007までの7年間において再現した. また, 地球温暖化シナリオをもとに両流域圏における水文量の変化(流量・流出パターン, 蒸発散量, 降雪水量)やSS負荷量の流出量・流出パターンの変化を月ごとに予測した. この結果をもとに斐伊川流域圏では, 斐伊川下流に位置する宍道湖の月別塩分濃度変動を予測し, 宍道湖の特産品であるヤマトシジミへの影響を文献調査により考察した. その結果, 降水量が30%増加した場合, 8月に最大37%塩分濃度が減少すると予測され, 年平均で最大24%減少すると予測された. この変動幅はヤマトシジミの成貝については殆ど影響無いと推定されたが, ヤマトシジミの産卵時期および卵の塩分変動耐性を考えると, 受精する卵が減少する可能性があると考えられ, ヤマトシジミの生産量に影響を及ぼす可能性が示唆された.
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