Research Abstract |
変異型SOD1(G93A)を導入したALSモデルマウス(Tg)を用い, 漢方方剤『温脾湯』の効果を検討した。7週齢のTgをコントロール群, 温脾湯投与群, 陽性対照群に分け, 温脾湯投与群には100, 200mg/kg体重/日の温脾湯を, 陽性対照群には25mg/kg体重/日のリルゾールを, コントロール群と野生型マウス(正常群)には水を1日1回, 15週齢まで連日経口投与した。その間, 運動機能と体重の測定を行い, 15週齢で屠殺, 脊髄を採取した。組織は, 運動神経細胞数, グリア細胞の活性化, ヘムオキシゲナーゼ(HO-1), 誘導型NO合成酵素(iNOS)の発現等について検討した。その結果, コントロール群では, 11週目以降から運動機能の低下が観察されたが, 温脾湯投与群では, 有意な運動機能低下の抑制が認められた。また, 温脾湯投与群では生存率に変化を認めなかったが, 体重変化から発症時期の延長が認められた。15週齢時の脊髄組織はコントロール群で正常群に比べ, 著しい運動ニューロンの減少が見られたが, 温脾湯200mg投与群ではこの減少が有意に抑制されていた。また, コントロール群ではミクログリアおよびアストロサイトの増加が認められたが, 温脾湯投与群ではこれらも有意に抑制されており, ミクログリア由来と考えられるHO-1, iNOSも同様に低下していた。 一方, 運動神経細胞由来細胞株NSC-34を用いた検討で, 温脾湯はperoxynitrite発生剤(SIN-1)や小胞体ストレス誘発剤(ツニカマイシン)によって引き起こされる細胞死を抑制しなかったことから, 温脾湯は神経細胞よりもグリア細胞に働きかけることでALS発症遅延効果を示すのではないかと考えられた。以上から, 漢方方剤や生薬のスクリーニング系には運動神経細胞だけでなくグリア細胞に対する効果も検討する必要があると考えられた。
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