Research Abstract |
本研究は,ラマン分光法を用いて癌組織と正常組織との明確な識別を行う診断技術の開発を目的としたものである.客観性・簡便性・低侵襲性などの特性を有する. これまで胃癌を対象として内視鏡生検検体を用い,癌と非癌は感度70%,特異度70%,正診率70%で判別可能であり,Journal of Gastroenterology 2008へ発表した.さらなる正診率と,臨床応用を目指し,下記のように研究を進めた. (1) 正常胃粘膜の標準ラマンスペクトルの確立 胃癌患者の正常粘膜組織はそれ自体が癌発生の母地であり,胃癌患者からの正常組織と癌組織の判別は困難である可能性がある.このため健常者の正常胃粘膜のラマンスペクトル解析を行った.残念ながら標準スペクトルの確立は不可能であったが,健常者胃粘膜と胃癌組織のラマンスペクトルは,感度94%,特異度97%,正診率95%と高い正診率で判別可能であり,この結果を第109回日本外科学会学術集会で報告した. (2) 生検検体と切除検体のラマンスペクトルの比較 将来の内視鏡検査時の使用を考えると,胃壁に対して粘膜面からの測定が必要である.胃癌に対する切除検体を用いて,この胃粘膜(正常部・癌部)を直接測定することにより,実際の内視鏡検査を擬似した.それまでのものと比較し,手術検体のスペクトルには粘膜以外(粘膜下層など)の情報が含まれていると考えた.そこで切除検体測定点からのラマンスペクトルのみを用いて解析した.3病変,癌26点と正常粘膜31点の測定点のラマンスペクトルを比較したところ,感度92%,特異度71%,正診率81%にて判別可能であった.この結果を第81回胃癌学会において報告した. (3) ラマン分光測定機器の改善 高効率の光電子倍増管の開発,励起条件(励起光強度、集光径)、および散乱光の集光条件の最適化を行い,測定を進めた.一時機器の故障により測定が遅延したが,修理により安定性が増し,次年度の測定がより安定した.
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