Research Abstract |
胸膜播種/胸膜浸潤のない患者における癌性胸水の発症機序を解明するため, 担癌症例の剖検例を病理学的に検討した. 剖検時, 胸水を採取し, 細胞診標本とセルブロック標本を作製して胸水中の癌細胞の有無を判定した. また, 全身の臓器を組織学的に検索すると同時に, 肺靱帯と壁側胸膜, 臓側胸膜から電子顕微鏡標本と組織標本を作製し, 漿膜を超微形態学的, 組織学的, 免疫組織化学的に観察した. さらに, 胸管を含めた全身のリンパ管およびリンパ節の標本を作製し, 癌の転移経路を調べた. 検索の結果, 光学顕微鏡レベルでも電子顕微鏡レベルでも肺靭帯表層に多数のリンパ管小孔が観察された. リンパ管小孔は漿膜直下の豊富な毛細リンパ管と密接に連結し, その近傍に筋型リンパ管が配置していた. また, 肺靭帯の筋型リンパ管の一部はリンパ節を介することなく胸管と連絡していた. 肺靭帯のリンパ管小孔は20-200μmの穴を有し, その穴の淵と槽の部分にはリンパ管内皮細胞が確認できた. 横隔胸膜や胸骨傍肋間胸膜にもリンパ管小孔を示唆する構造物が見出されたが, その数は極めて少数であった, 胸膜播種/胸膜浸潤のない22例の担癌症例のうち, 13例は癌性胸水を伴っており, これら13例の全てが肺靭帯と静脈角リンパ節に癌の転移を伴っていた. 胸膜播種の有無にかかわらず, 癌性胸水を伴う全ての症例で癌の肺靭帯転移が認められ, 同部のリンパ管小孔から癌細胞が胸腔へ遊離する像が確認された. したがって, これらの症例では, 体腔液中の物質の吸収路として機能するはずのリンパ管小孔が, 癌細胞を含めた物質の排出路として機能していると考えられ, さらに, 癌の静脈角リンパ節転移等による中枢側リンパ管の閉塞を背景に, 癌細胞が逆行性リンパ流やリンパの短絡路を介して肺靭帯リンパ管小孔に到達し, 癌性胸水の病態を引き起こしている可能性が推測された.
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