Research Abstract |
顎骨欠損患者の機能回復の手段の一つとして顎義歯が用いられるが, 現在でも顎義歯に関する咀嚼機能評価の確固たる指標は得られていない. そこで本研究では, 顎義歯の咀嚼機能に関する統合的な指標およびそのパラメータの構築を目的に, 顎義歯装着者の咀嚼機能を種々の評価方法を用いて測定し, 咀嚼能力と咬合との観点から検討を行った. 被験者は, 現在使用している顎義歯に満足し, 研究の趣旨に同意が得られた顎骨欠損患者24名である. 咀嚼能力評価では, 主観的評価として我々独自で考案した顎義歯用摂食可能食品アンケートを用いて行い, 咀嚼スコアの算出を行った. 客観的評価としては, 検査用グミゼリーとワックスキューブ(井上アタッチメント社)を試験試料とした咀嚼能力試験を行った. グミゼリーにより咬断片表面積増加量を測定し,ワックスキューブに関しては混合値を算出し, それぞれを咀嚼能力として評価した. 咬合の評価には, デンタルプレスケール(フジフィルム社)を使用した. なお, 咬合の因子として評価した項目は, 咬合力, 咬合接触面積, 咬合接触点数である. 得られた咀嚼スコア, 2種類の咀嚼能力および咬合の各因子において, ピアソンの相関係数を求め, その関連性を検討した. その結果から, 咀嚼スコアと咬合の各因子の間では, 正の相関関係を示した. 咀嚼スコアと2種類の試験材料における咀嚼能力との間にも相関は確認されたが, それぞれ弱いものであった. また, 咬断片表面積増加量と咬合の各因子の間では咬合接触面積で相関が最も強く, 0.59の係数を示した. さらに, 下顎骨の連続性や咬合支持域を有することが, 咀嚼能力に有利な傾向を示した. これらのことから, 顎義歯において良好な咀嚼機能を得るためには, 咬合接触関係を考慮する必要があると思われる. また, 今回の各測定項目が, 顎骨欠損患者に関する咀嚼能力指標作製のパラメータとして有用であると示唆された.
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