Research Abstract |
肥満は多くの慢性疾患の危険因子である。慢性疾患の一つである歯周炎も, 肥満との関連性が指摘されているが, 肥満による歯周炎悪化の機序には不明な点が多い。近年の研究から, 肥満による慢性疾患の悪化に酸化ストレスが関与することが分かってきた。そこで本研究では, 歯肉の酸化ストレスに対する肥満の影響を, ラット歯周炎モデルを用いて検討した。 5週齢のZucker fatty(ZF)ラット(遺伝性肥満ラット)14匹とそのヘテロ接合体であるZucker Lean (ZL)ラット14匹をそれぞれ7匹ずつ2群に分けた。一方の群には, 両側の下顎第一臼歯に絹糸を4週間巻いて実験的歯周炎を惹起させた。もう一方の群は, 対照群として処置を行わなかった。実験期間終了後, 下顎第一臼歯周囲の歯肉を採取し, 抗酸化力の指標として還元型:酸化型グルタチオン比を, 酸化ストレス度の指標としてミトコンドリアDNAに含まれる8-hydroxy-2'-deoxyguanosine (8-OHdG)の濃度を求めた。さらに, 歯肉からmRNAを抽出し, 酸化ストレスに関連した遺伝子群の発現の変化を, RT2 ProfilerPCRTMアレイを用いて評価した。また, 血清に含まれる活性酸素代謝物(ROM)の濃度を, フリーラジカル電子測定器を用いて測定した。 ZFラットの血清ROM値は, 歯周炎惹起の有無に関わらず, ZLラットよりも有意に高かった(p<0.05)。ZFラットの歯肉の還元型:酸化型グルタチオン比は, 歯周炎を惹起させない場合で15%, また歯周炎を惹起させた場合で37%, それぞれZLラットの値より有意に低い値を示した(p<0.05)。一方, ZFラットの8-OHdGの濃度は, 歯周炎を惹起させない場合で57%, また歯周炎を惹起させた場合で61%, それぞれZLラットよりも高く有意差があった(p<0.05)。さらに, 歯周炎を惹起させた条件下では, ZFラットにおけるcytochrome P450IIB3, cytochrome P4502c13, cytochrome P450, family 4, subfamily a, polypeptide 14およびcytochrome P450, family 4, subfamily A, polypeptide 22の発現が, ZLラットと比べて有意に低かった(p<0.05)。 肥満は, 血清ROMを高めると共に, 歯肉の抗酸化力の低下と酸化ストレスの増加を促した。また, 炎症を起こした歯肉では, 肥満によりcytochrome P450遺伝子群の発現が抑制されていた。
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