Research Abstract |
本研究は比喩, アイロニー, 慣用句といった修辞表現の意味理解過程に関与する神経基盤を, 機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて画像化することにより, 脳内機序の解明を目的としている. これを達成するために, 本年度は次の2つの実験を実施し以下の結果を得た. (1) 隠喩(metaphor)と直喩(simile)の理解に関する神経基盤の検討 隠喩(metaphor)と直喩(simile)の理解過程については, 直喩は比較プロセスによって理解され, 隠喩はカテゴリー化プロセスによって理解されるとするモデルが提案されている. 本実験では, Shibata et.al.(2007a, b)の結果を受け, 隠喩(metaphor)と直喩(simile), 及び字義文の理解過程についてfMRIを用い, 課題遂行中の賦活領域を比較検討した. その結果, 隠喩(metaphor), 直喩(simile)ともに, 左の下前頭回(BA 45/47), 左中側頭回(BA 22/37), 右上側頭溝(BA 21), 海馬傍回および視床に強い賦活が見られた. この結果より, 隠喩(metaphor)及び直喩(simile)とも類似した脳内の処理プロセスの関与が示唆された. (2) アイロニー理解に関する神経基盤の検討 ある発話がアイロニーとして理解されるのには, 発話が先行する文脈と矛盾した命題を含んでいることがあげられる(例えば, 晴天を期待していたにもかかわらず, 悪天候だった場合の「いい天気だね」といった発話). このことから, アイロニーは, 発話の字義通りの意味とは反対の, 含意された話者の意図を伝達する発話とされる(Grice 1975). 本実験ではこのような発話の非字義的な意味の理解にどのような脳内の処理プロセスの関与があるかについて,アイロニー発話, 字義的発話, 意味的逸脱を含む発話の3条件について, fMRIを用い, 課題遂行中の賦活領域を比較検討した. その結果, 字義的発話条件に比べ, アイロニー発話条件では, 内側前頭回(BA 10), 上側頭溝(BA 21)などの賦活が見られ, アイロニー理解には, 他者の心的状況や意図を推測するmentalizingプロセスの関与が示唆された.
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