Research Abstract |
平成20年度において,低圧下では,大気密度の低下によって気道抵抗が軽減されることから,換気量が高くなっても呼吸筋の酸素消費量は少ないことが明らかとなっていた.そこで,平成21年度は,低圧下における空気密度の低下による気道抵抗の低下が,最大換気量(VE_<max>),最大酸素摂取量(VO2_<max>)および運動パフォーマンスに影響を及ぼすかどうかについて検討した.低圧環境制御装置室を用いて,3,500m相当の常圧下(N)と低圧下において酸素濃度を32%に高めた高酸素下(低圧常酸素下;NH)において漸増負荷運動を行った.32%の酸素濃度は低圧下では,酸素分圧は159mmHgとなり,常圧下の酸素分圧と等しい.2条件を比較することによって「低酸素刺激」を排して,高地における,空気密度低下のみの最大運動時の呼吸代謝応答に対する影響を検討することができた. その結果,低圧常酸素下では常圧下よりもVE_<max>は高値を示した(150.7±10.0L/min in N vs.160.9±10.6L/min in HN).一方で,SaO_2(91±3% in N and 90±5% in HN)およびVO_2_<max>(63.0±4.7ml/kg/min in N vs.63.6±5.6ml/kg'min in HN)は常圧下と低圧常酸素下で有意な差が見られなかった,しかしながら,VO_2_<max>に差がないにも関わらず,低圧常酸素下では常圧下よりも運動継続時間は有意に長かった(910±79 sec in N vs.932±83sec in HN).また,昨年度の成果と本実験の結果から,全身のVO_2_<max>に対する呼吸筋群での酸素消費量の割合を算出したところ,常圧下では12.4%であったのに対して,低圧通常酸素下では9.1%と有意に低くかった.これらの結果から,低圧環境は,呼吸筋での酸素消費量の低下した分,活動筋での酸素利用が高まり,全身のVO_2_<max>の変化を伴わないで運動パフォーマンスを増加させることが示唆された.本研究課題の一連の実験結果は,いわゆる高所トレーニングにおける,低酸素下で行うトレーニングと実際の高所で行うトレーニングにおいて生体への負担の違いを明らかにすることに成功し,今後,より効果的な高所トレーニングへの応用可能な重要な基礎的研究となった.
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