2009 Fiscal Year Annual Research Report
復原された『夜の寝覚』と平安時代後期における政治状況の相関についての研究
Project/Area Number |
20820026
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
赤迫 照子 Hiroshima University, 図書館, 助教 (70452612)
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Keywords | 日本文学 / 平安時代後期 / 夜の寝覚 / 寝覚物語絵巻 / 摂政 / 関白 / 源氏物語 / 御堂流 |
Research Abstract |
寝覚物語絵巻」伝来・享受に関しては、江戸幕府御用絵師による国会図書館所蔵模写本と国立東京博物館所蔵模写本の比較検討と模写活動の調査、絵巻の旧蔵者館林藩主秋元氏関係資料(群馬県館林市立図書館所蔵)の調査を行った。他に原三渓周辺の記録についても情報収集を行った。 『夜の寝覚』における政治状況については、平成20年度に作成した年立と政治関係の条のリストを活用し、同時代の公家日記や歴史物語・説話文学との類似を具体的に分析した。また、一世源氏を絶対者として描いた『源氏物語』との比較も行った。これらの作業によって、『夜の寝覚』が藤原氏、特に御堂流による摂関体制を強く意識して物語世界を構築していること、そして『源氏物語』を適宜引用することで物語の論理を形成しながらも、摂関体制の存在を朧化した『源氏物語』の政治状況を意識的に相対化していることが明らかになった。 特に注目したのは、関白の人物像である。三人の関白(大殿・老関白・男君)の人物像には、実在の摂関(道隆・伊周・道長・頼通・教通・師実)のイメージが付与されている。これによって『夜の寝覚』は摂関家嫡流(大殿・男君)を御堂流に近似する存在として造型し、摂関家嫡流の正統性を保証しつつ、老関白を傍流として定位させながら、三人の関白が寝覚の女君・石山の姫君に奉仕し、源氏一族の皇統回帰5が実現するように展開していると捉えられる。そこで『夜の寝覚』を<藤原氏の物語>という視座で眺め、史実上の例に沿って各欠巻部分の政治的状況を推定し、その状況下で登場人物はどのような行動を余儀なくされたかを考察した。
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