2009 Fiscal Year Annual Research Report
「中国化」の観点からの日本近現代史の再構築:「集団」と「物語」を焦点に
Project/Area Number |
20820031
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
與那覇 潤 Aichi Prefectural University, 日本文化学部, 准教授 (50468237)
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Keywords | 日本史 / 昭和史 / 映画史 / 小津安二郎 / 公共性 / 政治思想 / 近代 / 中国化 |
Research Abstract |
本年度の研究成果は主として二系統に分かれる。ひとつは、日中両国の社会を対照するためのマクロヒストリー的、政治理論的な考察であり、もうひとつは、「中国化」の観点から既存の日本史叙述、日本文化論の記述を刷新していくための、具体的な事例研究である。 前者については、九州大学の「アジア市民社会公開シンポジウム」での報告と討論を経て、清朝中国と徳川日本の体制を、それぞれに完結した独自の「公共圏」とみなし、両者の歴史的な異同と、今日的な意味とについて活字化した論考を、次年度に同大学の紀要より公刊することが決定している(原稿入稿済)。20世紀前半の国民国家体制やケインズ政策が近世日本の公共圏、20世紀後半以降のグローバリズムや新自由主義が近世中国の公共圏の延長線上に位置づけられる一方、政治と道徳の未分離に伴う多元主義的公共観の欠如(一元的な正義論の信奉)という点では両者が一致することを示した。 後者については、文化史上でしばしば「日本的なもの」の象徴とされる小津安二郎監督の映画作品について、「植民地」や「中国」の視野から眺めることで、まったくその解釈が一変し、かつ既存の昭和史叙述の刷新にも有益な示唆が得られることを示した。既に所属学科の紀要に論文一点を発表したほか、名古屋歴史科学研究会での報告を基に、次年度に雑誌論文一点・論文集(共著)への寄稿論文一点を公刊の後(ともに入稿済)、単独の著作としてまとめる予定である。 また、直接に本研究費の支援を受けたものではないため本報告書には記載しなかったが、本年度に刊行した単著『翻訳の政治学-近代東アジア世界の形成と日琉関係の変容』(岩波書店、2009年12月)でも、部分的に本研究と重なる理論枠組や歴史叙述の提示を試み、広報上の成果を挙げた。
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