2008 Fiscal Year Annual Research Report
プラトンの中期対話篇における教育思想の展開に関する研究
Project/Area Number |
20820049
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Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
西尾 浩二 Otani University, 文学部, 助教 (20510225)
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Keywords | 哲学 / 思想 / プラトン / 教育 / 自己 |
Research Abstract |
本年度は、プラトンの中期対話篇(『国家』『パイドロス』など)における教育思想を支える重要な柱(哲学的背景)のひとつとして、「魂の三区分説」--魂(心)は欲望・気概・理性の三部分からなるとする説--を取り上げ、とくに気概と理性に着目して考察した。まず気概(テューモス)または気概的部分(テューモエイデス)の概念について、欲望と理性の中間という理論的位置を確認したうえで、気概が「恥(アイドース)」の感情を中核とする概念であり、美醜や正不正の価値評価を伴う自己イメージを前提としていることを、先行研究とテキストの検討を通して明らかにした。これにより、気概の部分が、ときに批判されるように心理学的根拠のない空疎なものではなく、またたんに怒りの感情の座でもなく、むしろ「社会的自己」の形成を担う部分としてプラトンにより提示されていることを立証した。さらにこの気概の理解を、魂論とは別の教育論の文脈においても検証し、その妥当性の確証を得られた。次に理性または理知的部分(ロギスティコン)の概念について、それが「真の自己」を示すプラトン流の概念であることを指摘し、「社会的自己」の形成にかかわる気概とは対照的な理論上の役割を担っていることを明らかにした。そのさい、この「理性=真の自己」という考えには、理性そのものをも含めた魂(心)の全体を反省的・俯瞰的立場から統制する「高次の欲求としての理性」という、プラトン独自の理性のとらえ方が含まれていることを示唆した。気概と理性の以上のような理解は、「魂の三区分説」を通してプラトンが提示した新しい人間像と、それを背景とする彼の教育思想を適切に理解するために、きわめて重要である。プラトン中期対話篇の教育思想を支えるもう一つの重要な柱であるイデア論については、教育論(とくに高等教育論)および魂論との関連に注意しながら、継続して研究している。
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Research Products
(1 results)