Research Abstract |
本研究の目的は,スワヒリ海村社会の資源利用と多民族共存について,歴史・自然環境分析を用いて比較研究し,スワヒリ海村社会全体の構造を類型的に解明することであった。若手研究スタートアップの二年間に特に力を注いだのは,研究環境の充実(研究機材,文献購入,調査許可取得,研究協力体制の確立)と,ケニアのラム諸島(ラム・マンダ・パテ島)とタンザニアのキルワ島での比較研究を目的とした現地調査である(二回)。二年間の研究成果は,6の論文(英文4,査読1)と10の学会発表(国際シンポ6)によって発表された。調査許可を取得したことで,ラム諸島では各役所への訪問調査と,諸島に分散する全海村での現地調査を円滑に遂行することができた。その結果,ラム諸島における,全海村の基礎データの収集,文献収集,環境地図の作成,漁法・漁具・船の分類,民族構成,精霊信仰が明らかになった。ラム諸島もキルワ島と同様に,初期スワヒリ交易都市であり,大陸にほど近く立地してマングローブとサンゴ礁の海を持つ島である。しかし,現在のキルワ島が人口1000人足らずの小海村である一方,交易や観光業で栄えるラム島の人口は2万人ちかくもある。民族構成もキルワ島より複雑である。このようなラム島の多民族には,民族に応じた生業形態,生業空間,資源利用,居住空間の住み分けがみられた。ラム諸島の多民族共存を考える際にはさらに,宗教(イスラームとキリスト教),観光客など外部者の存在,経済・教育格差などの問題があり,二年間の研究期間では充分にその全貌を解明できたとはいえない。今後の研究の継続を見据えて,ケニアの研究機関(ナイロビ大学アフリカ研究所,ナイロビ科学技術省,JSPSナイロビ研究連絡センター)との協力体制と,現地調査協力者との信頼関係を構築することができたことも本研究の大きな成果である。
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