2008 Fiscal Year Annual Research Report
韓国・朝鮮における首都圏の両班とその文化的動態に関する人類学的研究
Project/Area Number |
20820069
|
Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
太田 心平 National Museum of Ethnology, 先端人類科学研究部, 助教 (40469622)
|
Keywords | 文化人類学 / エリートネス / 旧慣調査 / 正統性 / 伝統 / 在京士族 / 権力・秩序 / 経済的優位性 |
Research Abstract |
韓国・朝鮮の生活文化の研究では、旧士族層(「両班」)が社会においてもつ優位性を明らかにすることが、一つの重要な切り口とされてきた。本研究では、首都近郊の旧士族層(旧在京士族層)を研究対象にすえ、その文化的特徴を歴史的に明らかにした。特に、二つの家門を事例とし、歴代の人物のライフヒストリーを収集・整理することで、その経済的な優位性がどのように成立し、維持されてきたのかを明らかにしてきた。結果として、士族を職業集団と考える意識が旧在京士族層には近代まで残存していたことが明らかとなるなど、韓国・朝鮮の旧士族層研究における新たな発見が見られた。 これまでの旧士族層研究では、地方社会の旧士族層(旧在地士族層)を事例とし、権限や人脈という政治的な優位性と、生活様式や社会的地位という文化的な優位性が解明されてきた。本研究は、旧在京士族層の生活文化を初めて対象化するとともに、職業や荘園(私賜地)経営の歴史的展開という経済的な側面からその優位性を紐解いた。この点で、先行研究で論じられた旧在地士族層の諸相を相対化し、かつ旧士族層の過去と現在を総合的かつ重層的に再考する基礎を提示したという意義をもつ。 また、文化人類学における権力・秩序の研究としても、本研究は重要性をもつ。本研究は、社会における権力・秩序がどのような要素からなっているか、各要素がどう補完しあって特定の人びとに権力を与え、社会全体に秩序をもたらすのかという問題を、再考的に解明しようとしている。 このように本研究の重要性は、(1)韓国・朝鮮の伝統文化を提示しなおすことで、韓国・朝鮮の文化に関する社会的認識の深化に貢献し、(2)サバルタン(虐げられた者)の研究に偏りがちな文化人類学の権力・秩序研究の幅を広げ、権力・秩序の仕組みにトータルに接近しようとしている点に要約できる。
|