2009 Fiscal Year Annual Research Report
表現の自由と名誉感情侵害不法行為との調整法理を解明する
Project/Area Number |
20830058
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
梶原 健佑 Yamaguchi University, 経済学部, 講師 (40510227)
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Keywords | 名誉感情 / 司法審査基準 |
Research Abstract |
平成21年度は、主として前年度までに収集した資料を分析し、まとめる作業を行った。さらに、足らざる部分を補う資料収集とインタビュー調査を行った。 前年度からの検討課題である、表現の自由領域における司法審査基準の体系的整理作業に一区切りつけるため、「衡量枠と準則」と題した論文を執筆した。このなかでは、立法事実を当て嵌めることによって憲法適合性についての結論を得ようとするstandard(衡量枠)と、司法事実を当て嵌めるrule(準則)とを結論誘導度の違いにも触れつつ対比的に描いた。さらに、衡量枠と準則との関係を、初期設定と特殊設定に擬えて体系的に把握する分析視覚を試論的に提示できたと考えている。 名誉毀損不法行為と表現の自由との「調整法理」である「真実相当性の理論」や「現実の悪意の準則」は、上の研究成果のなかに位置付ければ「準則」に配列される。名誉感情侵害についても、「名誉感情という法益」と「表現の自由」の2価値を共に損なわないような調整法理を準則のかたちで(すなわち、司法審査基準として)明確化することが必要である(このことは10月の山口大学経済学会の研究会において報告した)。 そのヒントとなるのはアメリカ不法行為法におけるIntentional Infliction of Emotional Distressというtortsである。手始めに2008年の連邦巡回区控訴裁判所判決であるHatfill v. New York Timesを素材に、同不法行為の概要・現状を明らかにすることにした。その成果は12月開催の九州公法判例研究会で報告のうえ、「Intentional Infliction of Emotional Distressと表現の自由」と題する小稿にまとめたところである。(1)現状において名誉毀損から独立した不法行為であるか否かが明確になっておらず、その解明には保護法益に立ち返った議論が不可欠であること、(2)言論対象別(人物別)の調整法理の解明に加えて、言論内容に応じた調整法理も必要であることを結論としている。 これらをうけて、日米の判例の推移をまとめ、成立要件の限定方法(主観的損害の客観化)、調整法理(候補)としての「現実の悪意」「ニュース価値の法理」等を総合的に分析する作業を進めており、近くまとめて公表するよう準備を急いでいる。
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Research Products
(4 results)