Research Abstract |
これまでに姿勢が自己の感情状態を変化させうることを,心理指標や行動指標を用いて確認してきた。本年度は,心理指標としての質問紙に加え,生理指標として自律神経系および中枢神経系活動の観点を加え,検討を行った。 質問紙研究としては,従来,前屈の姿勢は抑うつ気分を生じさせることが示されてきたが,抑うつ時には逆に前屈の姿勢をとるほうが,直立の姿勢をとるよりも,抑うつの程度が低くなることが見出されたという報告もある。そこで,実験的に抑うつ状態を作り出し,姿勢の効果を検討したところ,直立または後屈の姿勢をとると,抑うつ誘導前とほぼ同様の気分状態に回復するが,前屈の姿勢では有意な気分の回復は認められなかった。この結果は,将来的にはうつ予防,あるいはうつに対する臨床的技法につながりうるものである。 自律神経系活動は,これまでにも作業姿勢の研究では計測されてきたが,感情価をもつ姿勢については検討されてこなかった。そこで,感情との対応関係が認められている上述の3姿勢時における心拍,末梢皮膚温,容積脈波,呼吸の変化のデータを計測し,解析中である。中枢神経系活動のデータとしては,近赤外線分光法を用いて,前頭葉の脳血流量の変化という観点から検討している。うつ病者の場合,認知課題時に,健常者に比べて前頭葉が賦活しないことが確認されている。そこで,抑うつ気分を生じさせる前屈姿勢は,ベースライン時や直立,また後屈姿勢に比べて,前頭葉の賦活度が低いという仮説を立て,検証中である。これらについては,次年度にさらなる解析を行い,その成果を発表する予定である。
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