Research Abstract |
本年度は,姿勢の対自機能について,多面的に明らかにすることを目的とした。具体的には,第1に姿勢における視線の役割,第2にマインドフルネス状態が注意に及ぼす影響について,心理指標や生理指標を用いて検討を行った。 第1の点については,これまでに,特定の姿勢がそれに対応する感情状態を生起させることを確認してきた。だが,その姿勢は顔面,視線,体躯,手足の角度・位置などの多変数の複合体であり,どの変数が対自効果に寄与するのかは明確でなかった。そこで,今回は,姿勢は直立座位のままで,従来,検討されてこなかった視線の向きを上向き,正面向き,下向きと操作し,それによる感情変化を実験的に検証した。その結果,上向きと正面向きには有意差が見られなかったが,下向きは正面や上向きに比べて,より抑うつ気分を生じさせた。この結果は,後傾と直立姿勢との間では感情や脳活動に差はないが,前屈は直立や後傾姿勢と比べて,感情状態もネガティブになり,前頭前野の賦活度が低下するという予備的な研究結果と一致した。 第2の点については,マインドフルネスストレス低減法において,導入的なエクササイズとして用いられるマインドフル・イーティングの効果について,棒反応時間を指標として検討した。このエクササイズでは,呼吸や姿勢にまつわる身体感覚にも意識的に注意を向けていくが,実験の結果,これを行った群は,そうでない群に比べて,有意に反応時間の短縮が見られたことから,注意が向上したことが示唆された。姿勢の対自効果の研究においても,姿勢に対する意識が感情状態に何らかの影響を与える可能性があり,マインドフルネスはこの問題のヒントになるかもしれない。 これらの成果は,身体心理療法として,従来の心理療法を補完する1つのアプローチにつながる可能性をもつ。その理論的な背景としては,身体性の哲学を有する構成主義が示唆に富むように思われる。
|