Research Abstract |
本研究の目的は,わが国における慢性不眠症に対して,欧米で積極的に導入が進められている認知行動療法(CBT)を実施し,その効果を明らかにすることであった。当該年度において,次のことを明らかにした。 1.不眠とうつの縦断的調査 不眠とうつの関連性を調べるため,地域住民1577名を対象とした2年間の縦断調査を行った。その結果,不眠があると,2年後のうつ病の存在リスクが2倍に高まること,不眠の持続は,うつの発症,継続のリスクをそれぞれ7倍,3倍に高めること,ベースライン時の不眠得点が7.5点以上の地域住民は,不眠が慢性化しやすいことを明らかにした。 2.慢性不眠の認知行動療法に関するメタ分析 慢性不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)の有効性を検討するため,これまでに刊行されたCBT-Iに関する14の無作為化抽出比較試験(RCT)論文についてメタ分析を行った。その結果,CBT-Iは,主観的,客観的な睡眠指標だけでなく,自覚的な不眠感や重症度,抑うつ症状の改善にも有効であり,その効果は治療後も維持されることが明らかとなった。 3.睡眠薬長期服用中の慢性不眠症患者に対するCBT-Iの実施 睡眠薬を長期服用しているにもかかわらず,症状が改善しない慢性不眠症患者12名に対してCBT-Iを実施した結果,睡眠薬の減量,主観的な睡眠指標,不眠感,不眠の重症度,抑うつ症状に有意な改善が認められ,その効果は治療1ヶ月後でも維持していた。 本研究によって,不眠の慢性化がうつの発症・継続のリスク要因になること,慢性不眠に対するCBT-Iの有効性,CBT-Iは睡眠薬を減量しても不眠症状と抑うつ症状の軽減をもたらすことが明らかとなった。この一連の研究から,CBT-Iによって不眠を改善することで,うつ病の発症・再発予防効果が期待できる。
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