2009 Fiscal Year Annual Research Report
幾何学的フラストレーションの強い系におけるスピン液体状態の研究
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20840026
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山下 穣 Kyoto University, 理学研究科, 助教 (10464207)
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Keywords | 磁性 / 低温物性 / 低温物性 |
Research Abstract |
昨年度に引き続きスピン液体状態をもつ有機物EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2の熱伝導率測定を行った。驚くべきことにこの物質においては極低温で大きな熱伝導率を示し、温度に比例する項が最低温まで残っていることが分かった。この振る舞いは昨年度行ったκ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3とは全く異なり、本質的に異なるスピン液体状態が存在していることを明らかにした。 このような温度に比例する項が存在するということはそのスピン励起は最低温までギャップレスに残っていることを意味する。二次元三角格子系におけるギャップレススピン励起の候補としてスピノンと呼ばれるフェルミ粒子が理論的に有望視されているが、それを明らかにするために我々は熱ホール効果の測定に挑戦した。これは強磁場中において熱流に対して直角方向に温度差が現れる現象で電子系ではよく知られているがスピン系ではまったく測定例がない。しかし、スピノン励起に対しては熱ホール効果が存在することが最近理論的に示されその存在が注目を集めていた。 我々は熱ホール効果を最低温度から12テスラの強磁場までの測定を試みたが、測定精度の範囲内においてその存在を確認することはできなかった。 このように今年度は異なるスピン液体物質において全く異なるスピン液体状態が存在することが明らかになった。本研究において見つかった二つのスピン液体状態の本質、物質との関係を明らかにしていくことにより低次元スピン系の新しい研究領域が広がっていくものと期待できる。
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