Research Abstract |
文化財建造物の半数を占める伝統的木造建築物は,定期的な修理や補修が必要不可欠である.本研究は,そうした伝統的木造建築物の適切な修理時期の判断と現状保有される構造性能評価のため,微小振動測定を活用した評価手法の構築とその適用範囲を明らかにすることを目的にしている.昨年度と本年度の活動から,本堂(土壁)1棟,仏殿(板壁)3棟,二重門3棟,唐門1棟,五重塔1基,伝統民家2棟の現地調査を行うことができた.それぞれ常寺微動測定及び人力加振試験結果,構造情報が十分に調査できた事例に関しては建物重量と荷重変形関係を求めることができた.建物重量は,部材寸法調査と既往研究資料を参考に材積を算出して求めた.荷重変形関係は,水平耐力要素を柱-梁接合部の回転めり込み剛性・柱の転倒復元力・土壁(全面壁・垂壁)に特定し,既往研究で提案される理論式や経験式,また実験値を使用して求めた.また一方,既往研究で蓄積される微小振動測定の結果を収集し,伝統的木造建築物の建物種別による分類と建物高さ,重量,屋根仕様,壁仕様と微小振動特性との相関性を検討した.本研究で行った測定の結果は,概ね既往研究が示す傾向と類似しており,新たな蓄積として活用できると考えられる.建物基本情報と微小振動特定の相関性について,建物高さと1次固有振動数との間に良好な相関関係を認めることができた.建物重量,屋根仕様,壁仕様との相関性は,蓄積量が未だ少なく明瞭な傾向を明らかにするまでには至らなかったが,系統的に分類した1次固有振動数の分布範囲を特定することができた.建築年・築年数との相関性においては,劣化の影響を抽出し分析することを検討したが,傾向を明らかにするまでには至らなかった.また実例を用いた劣化評価の分析については,実例を調査することができなかったため,劣化評価に関する成果は十分に蓄積できなかった.木造が有する非線形性について,水平耐力要素の加算から求めた荷重変形関係と,微小振動時1次固有振動数から算定される微動時初期剛性との比較から,微小振動時1次固有振動数から大変形挙動を把握するための推定式を検討した.今後,特に耐震補強や実大実験を行う建物を対象にして,推定式の妥当性や,劣化評価に関する知見を示さなければならない.本研究の成果から,微小振動測定に基づく伝統的木造建築物の構造性能評価に関する基礎的な資料を蓄積することができた.今後さらに,壁仕様や仕上げ材に分類した事例を収集し,伝統民家や在来住宅に適用するための資料を蓄積する必要がある.
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