2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20880008
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
李 慶美 The University of Tokyo, 大学院・農学生命科学研究科, 特任研究員 (30507885)
|
Keywords | 浸透圧調節 / Ca^<2+> / 低イオン環境 / 鰓 / Na^+ / K^+-ATPase活性 / 透過性 |
Research Abstract |
硬骨魚類が様々な塩分環境に適応する上で、体液の浸透圧を能動的に調節することは必要不可欠であるが、体表を介した水やイオンの受動的な透過を最小限に抑えることも重要である。硬骨魚類が体表上皮における透過性を抑える上で環境水中のCa^<2+>が重要な働きをすることが示唆されている。そこで本研究では、ティラピアの鰓をモデルとして用い、硬骨魚類の体表上皮における水やイオンの透過性について環境水中のCa^<2+>の影響に着目して検証した。淡水飼育ティラピアを人工淡水(Ca^<2+>濃度:約1mM)とCa^<2+>欠乏淡水(Ca^<2+>濃度:約0.05mM)に移行した。同時に、NaClを用いて環境水の浸透圧を体液と等張にすることで、浸透圧ストレスを軽減した群(isotonic+Ca群、isotonic-Ca群)を用意し、計4群で移行実験を行った。移行1週間後に血液浸透圧およびイオン組成、鰓の構造、浸透圧調節の駆動力であるNa^+/K^+-ATPase活性を調べた。その結果、いずれの群でも血液浸透圧、Na^+、Cl^-、Ca^<2+>濃度は一定に保たれていたが、isotonic-Ca群でK+濃度が減少、Na^+/K^+-ATPase活性が増加するという顕著な変化が見られた。また、Ca^<2+>環境の変化による鰓表面の形態変化を走査型電子顕微鏡を用いて観察したところ、人工淡水群ではCa^<2+>の有無にかかわらず大きな変化は認められなかった。一方、等張群ではisotonic+Ca群と比較してisotonic-Ca群で、塩類細胞の開口部が拡張し、密度も増加していた。これらの結果から、淡水のような低イオン環境では低浸透圧適応機構が活性化されており、環境水Ca^<2+>欠乏によって上皮における透過性が上昇しても、これに容易に対処できることが考えられる。それに対し、等浸透圧環境下では、Ca^<2+>の欠乏によって顕著な塩類細胞の機能亢進と考えられる現象が観察された。この原因としては、ティラピアの浸透圧調節機構の方向性は体内、体外の浸透圧差によって決定されるのに対し、浸透圧調節の強度自体は体液のイオン濃度の変化によって決定されている可能性が考えられる。 以上の研究から、環境水中のCa^<2+>が体表上皮のE-カドヘリンを中心とする細胞接着に必須であり(平成20年度結果)、硬骨魚類が体表上皮での水・イオンの透過を最小限に抑える上でこの細胞接着が重要であることが判明した。
|