Research Abstract |
琵琶湖岸の低平地水田地区の農業排水路を調査し,底泥に含まれる窒素,リン,炭素量を明らかにした,砂分を除いた底泥1kg(乾燥重量)中の物質量は,上層(底泥表面から0cm~5cmの深さ)において窒素1~3g,リン2~4g,炭素10~30gであった.底泥中の窒素は,灌漑期(4月~8月)に多く,非灌漑期(9月~3月)に少ない傾向が見られた。これは,灌漑期には肥料由来の窒素を含んだ濁水が排水路に流れ込み,底泥として堆積する一方で,非灌漑期には底泥から無機態窒素の溶出によって窒素が減少するためと考えられた.底泥と排水の窒素の経時変化には,調査期間を通じて,高い相関が見られた.灌漑期においては,ポンプ稼動や営農などの人的要因および堆積や巻上げなどの物理的要因が,非灌漑期においては,溶出や吸着などの化学的要因がそれぞれ強く作用することが示された.底泥から窒素の供給によって,非灌漑期の排水の窒素濃度は,晴天日においても,代かき期や降雨時と同程度の高い値を示し,年間の窒素の地区外流出負荷の5割に相当する約20kg/haの流出負荷が非灌漑期に生じることがわかった.底泥中のリンは,夏季に多くなる傾向が見られた.また,底泥を充填した水柱模型を用いた溶出試験および吸着試験の結果から,底泥中のリンの吸着量は,水温に強く影響されることがわかった.つまり,リンは,水温の高い灌漑期において,底泥に強く吸着され,水温の低い非灌漑期において,底泥から排水へ溶出するものと考えられた.本研究成果をふまえ,水田地区からの排出負荷の削減には,非灌漑期前半の排水路管理(浚渫実施や水門の閉鎖など)が重要であると結論付けられた.循環灌漑の実施や排水路魚道など,周辺環境へ配慮した水田地区管理において,農業排水路の貯水機能の拡充は重要な要素の1つである.本研究は,貯水機能の拡充に伴うマイナス面を明らかにしており,今後の水田地区管理の改善に有益な知見を提供する.
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