Research Abstract |
神経難病である孤発性筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis, 以下ALS)では,グルタミン酸受容体サブユニットであるGluR2のRNA編集異常が疾患特異的に生じていることが,少数例の孤発性ALS例と疾患対照,正常対照例の剖検組織の検討から明らかにされている。そして,この分子異常は運動ニューロン死の直接原因になることが動物実験から明らかにされている.孤発性ALSの運動ニューロン死を引き起こす分子メカニズムを明らかにするため,GluR2 Q/R部位の編集異常の疾患特異性を,様々な孤発性ALSの病型で検討し、この分子変化の上流の分子異常と考えられる,RNA編集酵素adenosine deaminase acting on RNA type 2 (ADAR2)の活性低下の有無を,脊髄前角組織を用いて検討した. まず,凍結剖検脊髄前角組織を5例(正常対照群)及び孤発性ALS 29例(四肢型18例,球麻痺型8例,ALS-痴呆2例,好酸性封入体が出現する若年発症例1例)から回収しtotal RNAを取り出し,RT-PCR法で逆転写することによりcDNAを作成:特異的プライマーを作成し,各サンプル中のGluR2 Q/R部位をcDNAからPCRで増幅し,mRNAの編集率を制限酵素を利用した系(バイオアナライザー)で算出した.正常対照群と孤発性ALS群間のGluR2 Q/R部位,他の既知のADAR2の基質であるkvl.1 I/V部位, GluR6 Q/R部位,CYFIP2 K/E部位の編集率を測定した. その結果,正常対照では,GluR2 Q/R部位の編集率は全てほぼ100%であったのに対し,ALS例29例全てで編集率低下が認められ,ALS-痴呆を含む,様々な表現型をとる孤発性ALS全てに共通することが明らかになった.さらにGluR2 Q/R部位だけでなくADAR2の基質であるkv1.1 I/V部位,GluR6 Q/R部位は低下傾向を認め,新基質であるCYFIP2 K/E部位の編集率も孤発性ALSで有意に低下しており,ADAR2活性低下が原因である可能性が示唆された. 本研究の重要性としては,病因が明らかになることで孤発性ALSの特異的治療の開発につながることが期待できる.
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