2020 Fiscal Year Annual Research Report
新冷戦期における対中・対韓経済協力をめぐる日本の政治過程
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20F19311
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
井上 正也 成蹊大学, 法学部, 教授 (70550945)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
KIM EUNJUNG 成蹊大学, 法学部, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2020-04-24 – 2022-03-31
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Keywords | 日韓関係 / 経済協力 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、一次史料に基づき、1980年代日本の対韓経済協力資金提供をめぐる日本政府内の政策決定過程を分析の軸としながら、同決定が、当時の日本外交及び国際情勢といかに連動したかを解明することにある。 戦後日本のアジア外交の特徴は、経済援助や経済協力を中心とした経済外交への傾斜である。1970年代、日本のアジアに対する経済外交は加速し、1980年代、日本は韓国の要請に応じる形で膨大な対韓経済協力資金を供与した。日韓関係が経済問題に偏って密着した面では、1965年日韓国交正常化以来、1980年代に至るまである種の連続性があるといえよう。 一方、1980年代の対韓経済協力資金の提供は、安全保障とリンクした経済協力の性格が濃厚であった。これについて、鈴木善幸政権では歴史教科書検定問題が絡み、対韓経済協力資金の提供をめぐる日韓間の交渉が失敗に終わったが、中曽根康弘政権の登場で同交渉は「安保経協」として急進展した、という見方が強い。 本研究では、鈴木政権のハト派的姿勢を対韓交渉の失敗の原因と見なし、中曽根首相の政治力を対韓交渉の妥結要因として、各首相の個性の違いと、対外戦略を結びつけた従来の見方を再考した。政府内の対韓政策決定過程に焦点をあてながら、日本国内外の情勢と合わせて対韓外交の性格を総合的に判断を行った。そして、日本では韓国から多額の経済援助を要請される以前から経済協力の政治的な必要性を考慮していた点、鈴木政権は新冷戦期における対韓協力を通じた対米協力の必要性を概ね認めており、これが中曽根政権下の対韓経済協力資金提供の決定の前史となったことを分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
元来、本研究は、政治外交史の研究アプローチにより、次の3点に重点をおいて解明することを目指していた。第一に、1980年代日本の対韓経済協力資金提供の決定過程について、官僚政治、省庁間利益の衝突、政官関係のレベルで分析し、韓国政策における日本政府内の政治過程と政策論理を解明する。第二に、新冷戦期における日本外交の文脈で対韓経済協力の位置づけを解明する。第三に、当時の東北アジア情勢、及び先行された対中経済協力が、対韓経済協力の提供決定といかに連動したのかを解明する。 しかしながら、以上の三点を明らかにするための、日本、韓国、米国での一次史料調査及び当時の政策関係者のインタビュー調査は、2020年初頭からのコロナ禍のため大きな困難に直面した。加えて、米国国立公文書館(National Archives and Records Administration、NARA)では、近年、国務省史料R84の1979年までの史料が公開されていることから、続く80年代の文書公開の状況を米国現地にいる協力者を通じて注視していた。だが、コロナ禍の影響で同館は長らく閉館しており、1980年代の史料公開作業は進まなかった。 以上の理由から、当初の計画通りの史料調査ができず、日韓関係に関する米国側のコミットメントを米国史料から確認できなかった。ただし、日本と韓国では史料調査を行い、手元に入手した両国の外交文書を通じて米国側のコミットメントをある程度確認できている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、1980年から1982年までの外交史料を主な分析対象としているが、研究状況によっては1970年代後半の資料も参照する。例えば、1979年、大平政権が第一次対中経済協力資金提供を決定した際の政府内の議論、韓国の国内状況などについて、必要があれば史料を入手して分析する。また、米国のState DepartmentやCIAのウェブサイトから1980年代初期の 韓国の内部事情に関する史料が公開されている可能性があるとのことから、必要があれば、今後オンラインでの資料調査を行う予定である。 本年度、共同研究者・金恩貞は大阪市立大学法学研究科の政治学研究会において、これまでの研究成果をまとめたものを報告する予定であり、報告後、一次史料の追加入手作業を継続しつつ、小論文に向けた作業を行う。論文は基本的に日本国内で日本語論文として公表するが、機会があれば、研究期間終了後にも英語や韓国語による翻訳公表も念頭に入れている。なお、本研究が終了した後も、引き続き日本外交史の視座から1980年代さらに90年代の日韓関係を分析していく予定である。
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