2020 Fiscal Year Annual Research Report
A study on Border Literature focused on Alterity and Captivity in POW camps and colonial literature
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20F20777
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
土肥 秀行 立命館大学, 文学部, 教授 (40334271)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
BOVA ELIO 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2020-11-13 – 2023-03-31
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Keywords | 境域文学 / 南洋群島 / 植民地 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、当該外国人特別研究員が、2019年度提出の博士論文で取り組んできた中島敦の南洋行の研究を土台に、捕虜収容所及び植民地文学に於ける異郷と捕囚の視座から〈境域文学〉の比較研究を課題としている。当研究の主な目的は二つである。まずは、中島敦の文学に関して、〈自己と社会〉、〈異郷=捕囚〉との論点から、特に植民地の内なる社会・共同体への排除的包含性を成し得た二義的な結束を捉えること、そして、この主題に関連して、植民地文学における〈境域〉と〈カプティヴィティー〉(隷属)の研究を展開することである。共同研究においては、植民地及び捕虜収容所の次元に付随する境界の〈内〉と〈外〉、主体と客体の不安定性、その境をめぐる変貌と移動・移民に関する諸問題を読み込んだ視野から、特に南洋群島の実態と日本人作家の南洋体験に着目する。こうした歴史・社会性を孕んだ境界のトポスに形成する秩序のメカニズムを分析・考察していくためのディスクールを展開させるのが本研究の最終的な到達点となろう。共同研究の成果は、次節に挙げる研究活動(学会や研究会での発表、学術論文発表など)と、そしてこれらを通して本研究の決定的な成果物となる学術出版に具体化する。単著『中島敦文学に於ける南洋行――『環礁』の位相――』(仮)が包含するのは、これまでの研究成果の増補修正版に加え、本共同研究の射程外の内容まで、となろう(人文書院より2022年6月までに刊行予定)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題はこれまでのところ、2020年度の特別研究員奨励費申請書に記載のスケジュール通りに進んでいる。 当該外国人特別研究員は、分析対象を、中島敦の〈寓話もの〉にまで広げ、2020年12月に「日本近現代文芸学」(第3号)に予定通り発表した。なお、本稿は、中島敦の短編集『古譚』(『光と風と夢』1942)の作品研究を中心課題とする連作論文の第一に相当する。これらの連作論考においては、中島文学における言語(ランガージュ)にフォーカスし、来年発刊予定の単著の第1部「言語と世界」(全4部)に相当する。この第1部は、本共同研究が課題とする「自己と社会」の関連性を扱う。「自己と社会」との論点から特に社会・共同体からの隠遁過程の描出に着目している。中島文学に表出する社会への二義的な結束、またはそうした次元において自らの社会内存在としての側面を失う人間像を捉えた議論は、帝国主義時代の植民地(本研究の場合、特に南洋群島)を考える上でも重要である。ここから本共同研究の第二の課題、境界性をめぐる議論へと至る。中島の中期・終期作品から浮かび上がる社会像とは、20世紀前半において排除されながらも包含される、存在の非人間化が可能となった歴史の〈場所〉、即ち植民地及び強制収容所という歴史・社会の〈境界領域〉と呼応している。この呼応性の分析は、出版予定の図書内容・位置で言えば、図書の最終部に当たるものであり、目下課題としている。現在、中島文学における言語に関する上記の研究課題を遂行すべく『古譚』収録の「木乃伊」論または「狐憑」論、それぞれの発表と論文執筆の準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
当該外国人特別研究員は、研究期間の活動のほぼ全てが、目下注力する単著出版へとつながる。まずは、中島敦『古譚』収録の作品「木乃伊」と「狐憑」それぞれに関する章を書き終える予定である(これらが単著の主たる内容に相当)。これらの章の準備過程において、学会発表と論文発表を挿んでいく。同時進行で、ミクロネシア実地調査を実行に移す。目的は資料収集と実地調査、現地研究者との交流である。現地においては、サイパン→テニアン→ロタ→ヤップ→パラオ→トラック→ポナペ→クサイの順にまわる。これらの島は南洋群島を統治する行政機関、南洋庁の影響圏に置かれる主島であり、本調査の対象の多くがそうしたエリアに存する。また、伊日研究学会AISTUGIAの年次大会において発表を目指す。テーマは「中島の南洋群島経験」である(伊語での発表予定)。単著については、補筆分を含めた原稿執筆を完了させ、出版社に提出する。量は20万字程度である。また英語の業績を通してより幅広く海外においても研究者として認知されることは重要である。そのため、上記の単著の英語版を発表する予定である。和文の単著の英訳・校正準備を、本共同研究の終了までに済ませる予定である。今後の研究費で、英語訳・校正費用の一部をカバーする予定である。
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Research Products
(1 results)