2021 Fiscal Year Annual Research Report
Resurgence theory and its application to physics
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20F20787
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
藤森 俊明 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 助教 (60773398)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
GLASS PHILIP 慶應義塾大学, 自然科学研究教育センター, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2020-11-13 – 2023-03-31
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Keywords | リサージェンス / 場の量子論 / 非摂動効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度の研究では、リサージェンス理論にまつわる長年の未解決問題であるリノーマロン問題に焦点を当てた研究を行った。リサージェンス理論は、漸近級数である摂動級数に対してボレル総和を適用した際に現れる不定性への対処法であるが、経路積分の準古典的な観点からはいくつかの未解決問題が残されている。特にリノーマロンに関して、「経路積分における鞍点寄与」として特定できるかという点が問題となっている。リノーマロンに対応する鞍点解の候補として、いわゆるバイオン解が提案されているが、その真偽はいまだ判明していない。 2021年度の研究ではこの問題に関連して、ラージN非線形シグマ模型におけるリノーマロン不定性の構造を調べた。特に、赤外発散の正則化スケールパラメータとリノーマロン不定性との関係について詳細に調べた。ラージNのO(N)非線形シグマ模型の性質を利用して、相関関数をラージN極限における厳密なトランス級数の形式で記述し、不定性が含まれる部分を特定した。その結果、強結合化スケールパラメータΛと比較して、赤外発散の正則化スケールパラメータが大きい場合、不定性が現れないことを確認した。一方、正則化パラメータが小さい場合、摂動級数のリノーマロン不定性は非摂動的寄与の不定性だけでは打ち消されないという従来の考えに反する知見が得られた。またそのようなリノーマロン不定性は、より高次のボレル不定性を取り入れることで相殺されることを発見した。さらにこのような性質はより一般的なラージN模型にも適用できることを示した。研究では、例として、同様のリノーマロンの構造がラージNのCP^Nシグマ模型でも現れることを示している。この研究は今後のリノーマロン問題の進展において重要になると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究は概ね順調に進展した。本研究の目的は、非摂動効果を理解するための鍵となる「リサージェンス理論」を発展させ、強い相互作用をする場の理論へ応用することである。2021年度は、強結合場の理論に対するリサージェンス理論の応用の障害とも言える「リノーマロン問題」を重点的に扱った。リサージェンス理論が扱うのは、摂動・非摂動的寄与それぞれの不定性の関係を扱っているが、QCDなどの漸近的自由な場の理論では、リノーマロンに対応する非摂動的寄与が不明であることが問題となっている。 このリノーマロン問題を解決することが、本研究課題の大きな目標の1つである。2021年度の非線形シグマ模型のラージN極限におけるリノーマロン不定性に関する研究は、問題の解決へ向けた着実な一歩であると言える。まずリノーマロン不定性の構造を明確に理解しておく事によって、対応する非摂動的寄与をもたらす鞍点解の存在を明らかにすることが可能となる。 本研究では、その点に焦点を当て、赤外発散とリノーマロンの関係をラージN非線形シグマ模型において明らかにした。これにより、従来の考え方とは異なる新たなリノーマロンの構造に関する知見が得られ、さらなる研究の進展へと繋がることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
新たに得られたリサージェンス理論に関する知見を発展させ、リノーマロン問題の解決に向けた以下のような研究を計画している。これまで研究では、ノンコンパクトな二次元時空上での非線形シグマ模型を対象にしてきたが、今後はZ_Nツイスト境界条件を課してコンパクト化した時空におけるリノーマロンを議論する。これはいわゆる「断熱的連続性」によって弱結合と強結合領域をつなげることで、リサージェンス構造を調べるというアイディアを実現することを目指している。 また、その他の場の理論においても、新たなリノーマロンに類似した構造が見つかっている。特に、可積分性を利用して摂動級数を導出することで新たな知見が得られている。特に、2次元の非線形シュレーディンガー模型に着目をして、可積分性を通して、複素鞍点解とリサージェンス構造の関係を解析し、リノーマロン問題の解決に向けた研究を進める。
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