2022 Fiscal Year Annual Research Report
Reinventing the Study of Andean Civilization through Analysis of Social Memory
Project/Area Number |
20H00050
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
關 雄二 国立民族学博物館, その他部局等, 名誉教授 (50163093)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
サウセド ダニエル 立命館大学, 政策科学部, 准教授 (10727671)
坂井 正人 山形大学, 人文社会科学部, 教授 (50292397)
瀧上 舞 独立行政法人国立科学博物館, 人類研究部, 研究員 (50720942)
鵜澤 和宏 東亜大学, 人間科学部, 教授 (60341252)
井口 欣也 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 教授 (90283027)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 考古学 / 文化人類学 / 文明 / 権力 / 社会的記憶 |
Outline of Annual Research Achievements |
7月下旬より一ヶ月半ほどペルー北高地カハマルカ州チョタ郡ケロコト郡に位置するラ・カピーヤ遺跡で発掘調査を実施した。本来ならば、ラ・カピーヤ遺跡に隣接するエル・ミラドール遺跡の発掘を実施する予定で、ペルー国文化省からも許可を得ていたが、土地所有者間で相続問題が生じ、断念せざるを得なかった。しかしながら、一昨年、発見し、世界的なニュースとなった「巻き貝の神官墓」の被葬者の自然人類学的分析や同位体分析を実施することができた。とくに自然人類学的分析により、被葬者が男性、35歳から50歳、また頭蓋変形の痕跡を持つことが判明した点は大きい。また放射線炭素年代測定値は、紀元前1400-1300年と予想以上に古く、これまで18年間の調査の中で明確な活動を確認することができなかった形成期前期にあたることが明らかになり、この成果をエクアドルでの国際集会でも公表した。 一方で、この「巻き貝の神官墓」が設置された時期の建築活動を把握するために実施した周辺の発掘において別の収穫が得られた。「巻き貝の神官墓」の設置後、いったんこの区域は放棄され、その後、墓に隣接するように改めて大型の土坑が掘られた。その土坑を埋め始めた直後に墓が土坑内に設けられた。「巻き貝の神官墓」よりは新しい時代にあたるが、この墓からは、I期(形成期中期)の土器とともに3点の印章が副葬品として出土した。アンデス文明における印章の出土は珍しく、最古級にあたるため「印章の神官墓」と命名した。I期の墓は、これまでほとんど発見されてこなかったため、「巻き貝の神官墓」と併せて、形成期中期や前期においてもエリートが誕生していた可能性が導き出され、従来、形成期後期(紀元前800-700年)に権力が顕在化するとしてきた解釈を見直す必要が出てきた。この発見の報道は、全世界に流れ、大きな反響をもたらした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
エル・ミラドールの発掘が叶わなかった点は予定外であったが、昨年度輸出が認められたサンプルをもとに、人骨や獣骨などの科学分析を着実に進めている。また遺伝子解析も順調に進んでおり、分析サンプル数を増やし、論考を提示することを目標としたい。 一方で、一昨年、昨年と、連続して重要な人物の墓を発見することができた点は予想上に大きな収穫であった。本プロジェクト自体は、形成期以降(前1年以降)の社会を対象としているが、形成期前期(紀元前1800~1200年)や中期(紀元前1200~前700年)という、これまでの調査では得られなかった埋葬の情報は、社会的差異が明確になる形成期後期(前700~前400年)の社会が過去をどのように認識していたかを分析する際に、重要な視点を提供することは疑いようがない。これは、研究対象の拡大にもつながるが、アンデス文明史の研究自体をみたときには、むしろ喜ぶべき事態といえる。 またインカ期における防御用の溝の範囲は、ほぼ確定することができ、今後は出土遺物の分析を進めて行く予定である。残された1年をとおして、これらの成果を国内外の学界で積極的に発信していくこと予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍による現地調査の遅れはほぼ取り戻したと言える。今後は、このスピード感を持って、現地調査や出土遺物の分析を進めていきたい。また、昨年、ペルー国内で広がった政治不信に連動する社会不安も徐々に落ち着きを取り戻しており、今年度の調査については、問題なく遂行することができる。 とくに、一昨年、そして昨年発見された墓については、国際学界における注目度が高いため、詳細な分析を行う必要があり、また墓の周辺を徹底的に発掘調査し、当時の儀礼活動を具体的に追究していく必要がある。これは、権力生成の時期が、従来考えられてきたよりもはるかに古くなる可能性があるという点の検証にもあたる。さらに昨年予定していたエル・ミラドール遺跡の調査も、土地相続問題の動きを注視しながら、可能ならば発掘調査を実施していきたい。一方で、形成期以降の活動については、ほぼ発掘作業は終了しており、土器などの分析を加えれば、研究期間内において予定していた目標をほぼ達成できると考えている。 加えて出土遺物の分析に関しては、昨年に輸出許可を得て日本に持ち帰ったサンプルの同位体分析、遺伝子分析を進め、成果を発表していきたい。こうしたデータを統合した上で、国内外における国際シンポジウムを利用し、評価の場を設けていく予定である。
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