2020 Fiscal Year Annual Research Report
高エネルギー原子核衝突実験の理解に基づく超高温QCD物質・QCD相転移現象の解明
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20H00156
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
野中 千穂 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 教授 (10432238)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三好 隆博 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 助教 (60335700)
高橋 博之 駒澤大学, 総合教育研究部, 講師 (80613405)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | クォーク グルーオン プラズマ / 高エネルギー重イオン衝突実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
通常、クォークやグルーオンは陽子などのハドロン内に閉じ込められている。しかし、高温・高密度のような極限条件下では量子色力学(QCD)の漸近的自由性により、新しい物質相、クォーク・グルーオンプラズマ(QGP) が実現すると考えられている。このQGP相からハドロン相への相転移はビッグバンの10万分の1秒後に起こったと考えられている。これを地球上で実現しているのが高エネルギー重イオン衝突実験である。この高エネルギー重イオン衝突実験を理論的に解析をするためには第一原理であるQCDや有効理論に加え、相対論的流体模型を軸にした現象論的模型が必要である。高エネルギー原子核衝突実験の理論的な解析を通して、量子色力学相図やQGPのバルクな性質の解明に取り組んだ。今年度は特に相対論的粘性流体方程式の最新のコードを使用し、QGPやハドロン相の粘性の温度依存性や鉛ー陽子衝突の小さい系の解析に取り組んだ。小さい系の解析からは流体化や熱平衡化についての解明を目指した解析に取り組んだ。さらに構築した相対論的粘性流体を用いて光子生成の解析に取り組んだ。これまで問題になっていた光子パズルに対し、新しい光子生成機構を提唱し、実験結果の説明に成功した。さらに流体ゆらぎの多粒子フロー相関の解析を行った。その結果、相対論的ゆらぎに敏感なチャンネルを見出し、QGPのバルクな性質を正確に求めるためには流体ゆらぎが必要であることを指摘した。さらに相対論的抵抗性電磁流体模型の開発にも成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度はコロナの影響を大きく受けた年度になってしまい、当初計画していたことの実現が困難になってしまった。一つはコロナ対応の講義の準備にこれまでにない工夫の必要があり、想定外の時間がかかってしまったことがある。また学生の指導もオンラインのみとなり、お互いに慣れるまでに時間がかかった。共同研究者の間の議論においても同様の困難が伴った。前期はお互いに講義などの準備のため時間がなくなりオンラインでの議論をもつことも難しかった。しかしだんだんこのような状況にも慣れてきた。そしてもう一つの問題点は国内外の出張ができない状況になり、2020年度前半は計画していた国際会議のほとんどが中止になった。こういったことから計画していた国外の研究者との交流が途絶えがちとなってしまった。2020年度半ばあたりから様子を見ながらのオンラインでの国際会議も開催されるようになった。ただ、海外のオンラインの会議は時差もあり、集中した出席がむずかしい状況にあった。高エネルギー原子核衝突実験の物理では実験装置がアメリカ、ヨーロッパにあることから欧米の研究者との交流が重要であったが、そういった従来の活動が全くできないか、他の方法、オンラインを使った方法を探る期間になり、当初の計画からかなり遅れた状況になってしまった。2021年度からはオンラインでの会議開催や議論の方法にもなれ、ようやく研究を軌道に乗せていくことができるようになった。2022年度はめざましい進展があり、2年間の遅れを取り返すことに成功できた。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度までに、光子生成の新しい生成の解析を行い、実験に置いて見出されていた光子パズルの解決に成功した。光子のような電磁プローブは高エネルギー衝突の衝突直後から時空発展の全てのプロセスの情報を含んでいるためとても興味深い。この研究は現在レプトン対の不変質量分布の解析へと発展している。流体ゆらぎの多粒子フロー相関の解析にも取り組み、これまでQGPの粘性には依存しないと思われていたチャンネルが流体ゆらぎの影響を受けること、QGPのバルクな性質を議論のために、流体ゆらぎが重要であることを指摘した。この流体ゆらぎの影響を鉛ー陽子の衝突実験に適用し、流体化のプロセスを探る、あるいは有限密度に拡張しQCD臨界点への解析への発展も考えている。そして大きな進展は相対論的抵抗性電磁流体を完成させたことである。高エネルギー重イオン衝突実験では、重イオンを衝突させるために、衝突直後に強磁場が生成されることが予想されている。この電磁場の時空発展を解析するために、相対論的抵抗性電磁流体の開発が重要である。ここでは、開発した流体コードを高エネルギー重イオン衝突実験の物理を記述するのに便利なミルン座標系で初めて開発した。このコードの数値解と解析解との比較を行い、コードの検証を行った。そしてこのコードをRelativistic Heavy Ion Collider (RHIC) の対称衝突系である金ー金衝突、非対称衝突系である金ー銅衝突に適用した。その結果電気伝導度を実験結果の解析から導き出すことに成功した。この模型は相対論的カイラル電磁流体への開発、そして有限密度方向への拡張を行なっていく予定である。
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